患者の「生活」を見て薬物治療を考える

 長寿国日本では、100歳以上の百寿者が珍しくなくなってきた。カリン薬局(京都市)の小林篤史氏は、人生100年時代の薬物治療で薬剤師が注意すべきポイントについて、第64回日本老年医学会(6月2~4日)で私見を述べた。

大切なのは患者の「生活」

 小林氏は薬剤師として在宅医療に関わってきた中で、患者の生活を大切にしてきた。外来とは異なり、在宅医療では患者宅を訪問するため、自宅での様子がうかがえ、普段どのように生活しているかが見えてくる。例えば、孫と楽しそうに触れ合っているのであれば、孫を大切にしていることが分かる。そのようなことを踏まえ、医療者としてどのように関わっていくのかを判断するようにしているという。  

 普段の生活からは、①生活背景評価(家族構成、社会的背景、生活習慣、介護認定の有無・内容)、②総合機能評価(身体機能、認知機能、心理機能、栄養状態、感覚機能)、③検査データ(バイタル/フィジカル・アセスメント)-について、目で見て把握するよう心がけている。また、在宅医療では患者やその家族に対し医療者が考える正解を押し付けるのではなく、話に耳を傾けることで心を開いてもらい、本音を聞き出すことも大切である。

 健康というと単に「疾患がないとか虚弱ではない状態」をイメージすることが多い。しかし、同氏は「病気や虚弱な状態でないことが必ずしも健康といえるとは限らない。医療者としては、なんらかの薬剤により病気や虚弱な状態が医学的に改善する見込みがあっても、当人は服薬できない(したくない)事情があるかもしれない。その場合、服薬しないことが健康につながることもありうる」と述べ、「在宅医療ではこういった視点を持つ必要がある」と指摘した。

薬剤の大きさの理想はドネペジル5mg錠

 高齢者では、腎機能などの低下により薬物の血中濃度が上昇し、消化管機能が低下すると、栄養状態の低下につながりやすい。併存疾患も多くこのような状況を踏まえながらポリファーマシーに配慮する必要がある。 一方、在宅の小児患者では状況が異なる。小児患者では、体内に水分がたまりやすく、薬剤の効果が見られるケースと見られないケースに明確に分かれる傾向にある。また、高齢者や成人と異なり成長段階にあるため、年齢や体格に応じた投与量を心得ておく必要がある。

 実際に内服薬を手渡す際には、服薬管理としてまずは口腔を見ることが重要だという。とりわけ高齢者では、口渇を来すと服用した薬剤が口腔に残存することが少なくない。入れ歯の間や、最後まで嚥下ができず咽頭でとどまっている例もあるからだ。このようなケースでは、剤形変更の検討やそもそも当該薬剤が本当に必要なのかを再考することも重要となる。

 小さい薬剤は一見コンプライアンスが良さそうだが、小さ過ぎると見えずに落としてしまう、歯に挟まるなど、適切な服薬ができないケースも多いという。大きな錠剤は粉砕すると苦くて飲めない、有効性が担保できないといった問題がある。高齢者に適した薬剤の大きさとしては、認知症治療薬ドネペジルの5mg錠(直径8mm)が飲みやすい目安とされる。

 また、口腔乾燥症などの問題もある。口腔乾燥や口喝が副作用に挙げられる薬剤は700種類を超えるとされ、十分な食事を取ることができず、栄養状態の悪化につながることが少なくない。その他、便秘や味覚障害を来たす薬剤についても配慮が求められる。

薬は生活を支える1つのツール

 終末期の在宅医療では、短期間で容態が急激に変化する。その中で最適な薬物治療を支援できるかが薬剤師の腕の見せ所となる。在宅緩和ケアにおける薬物治療は、①内服薬が多い、②数や種類が多い、③医療用麻薬を使用する、④副作用の頻度が高い薬剤の使用や副作用が出現しやすい状態にある、⑤臨終期は容態の変化が激しい-といった特徴がある。このような状況では、嚥下困難や自力で包装が開封できない、頓服薬がうまく使えていないなどの問題が発生し、これらの確認と評価を行い、剤形や数を考慮して飲みやすい薬剤を提案する必要がある。

 在宅医療における薬物治療では、患者の生活を考え、生活に必要な薬物を評価する。生活が改善されれば健康に笑顔で楽しく過ごせるようになる。薬は生活を支えるツールの1つであり、全ては生活の中からニーズを見つけ、主語は薬でなく患者。患者が薬についてどう思っているのかをまず考えることが重要となる。

 小林氏は「薬剤師は薬の安心・安全を提供し、保険料を支払っている保険者に対価を提供することが使命である。一方で、薬剤師も1人の人間であり、人生100年時代を生きる中でお互いを支え合い、安心して暮らせる社会づくりに関与することが必要である。医療を通じて一緒に考える機会をもらっているという意識を持つことを忘れないようにしたい」とまとめた。

(編集部)