要介護の高齢者に口腔ケアを行う方法は?
2011年11月22日 12:01
要介護の高齢者に口腔ケアを行う良い方法を教えてください。
(女性 20代)
誰でもできる口腔ケアの方法をご紹介します。
標準化した口腔ケアとしての"口腔ケアシステム"
他人の歯を磨く(口腔内清掃)ことは考えている以上に難しいものです。看護師や介護者は多忙であり口腔ケアだけに時間をかけられないのが実状で、時間的制約や他人の歯を清掃することの心理的障壁、技術的困難さ、要介護高齢者の非協力、さらには口腔保健の知識不足により、口腔ケアは必ずしも適切に行われていません。
筆者は、超高齢社会を迎え急増する要介護高齢者の口腔保健を維持する方法として標準化された普及型口腔ケア("口腔ケアシステム")を厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)にて開発し、在宅、施設、病院の現場での口腔ケアの普及活動を行ってきました。
"口腔ケアシステム"は、臨床評価で有効性が立証された口腔ケアを、誰でもできるように簡便化し、システム化したものです【文献1-4】。比較的安いコストで短時間、かつ少ない介護負担で、歯科医療の専門職に限らず誰が行っても同様の効果が得られ、口腔全体がきれいになるという特徴があります。
このシステムは、日本老年医学会が開催している「後期高齢者を総合的に診る医師の研修」のための老年病専門医研修会にも「高齢者の口腔ケアの必要性とその方法」として紹介されています。
"口腔ケアシステム"の具体的な手法
口腔ケアは、要介護者を座わらせた姿勢で1日1回、1回5分以内で、以下の手順により行います。
(1)口腔ケアスポンジを使って口腔粘膜・歯肉にある食べ物のかすなど(食物残渣)を除去します(1分)【図1】。
口腔ケアスポンジは、方向性を気にすることなく楽に使えて、粘膜を傷つける危険性が低いため広く使用されています。
【図1】口腔ケアスポンジで口腔粘膜・歯肉の食物残渣を除去(1分)
(2)軟毛歯ブラシで舌の表面に付着したこけ類(舌苔=ぜったい)を取り除きます(30秒)【図2】。
【図2】軟毛歯ブラシで舌苔を除去(30秒)
口腔ケアで忘れられがちなのは舌の清掃です。きわめて軟らかい毛先の歯ブラシ(永山HOME CARE A-US® など)で舌の奥から手前へ10回程度軽くこすり、舌苔を取ります。舌ブラシは、舌の背面にある小突起(舌乳頭)を傷つける可能性があるので、現在は軟毛歯ブラシに変更しています。
(3) 電動歯ブラシで歯面に粘着した細菌群を破壊します(2分30秒)【図3】。
【図3】電動歯ブラシにて歯面清掃(2分30秒)
プラークの除去には、電動歯ブラシを使用します。他人の歯をブラッシングするのは、角度や方向などが難しいので、先端が小さな円形で方向の制約がなく、高速で動く回転式の電動歯ブラシがきわめて有効です。
(4)うがいで口腔外に排出します。(1分)
電動歯ブラシなどで口腔内に遊離した口腔細菌を排出するには、うがいが不可欠です。自分でうがいができない場合は、補助的に口をすすぐための給水装置や吸引器が必要です。
"口腔ケアシステム"の実際の活用法については、書籍【文献2】やビデオ【文献3】が出版されています。さらに口腔ケアのパンフレットは国立長寿医療研究センターのホームページからダウンロードできるので、ご参考にしてください。
【参考文献】
- Sumi Y, et al. Development of systematic oral care program for frail elderly persons. Special Care Dentist 2002; 22: 151-155.
- 角 保徳,ほか: 5 分でできる口腔ケア 介護のための普及型口腔ケアシステム.医歯薬出版,2004.
- 角 保徳: 誰でもできる高齢者の口腔ケア(ビデオ).中央法規出版, 2003.
- 角 保徳: 口腔ケア 要介護者と自分自身の健康を守るために. 今日の健康 2011年9月号, NHK出版,pp119-124.