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カンガルーケア被害者家族の会が厚労省などに要請

 2012年06月15日 10:07

 出生直後に不適切なカンガルーケアや無理な完全母乳保育・母子同室で重症脳障害を負った乳幼児の家族らが結成する「出産直後のカンガルーケア・完全母乳等により脳障害を受けた新生児を抱える『患者・家族の会』」(代表=須網香氏)は6月14日、厚生労働省や国会議員らに正常新生児への周産期医療体制の改善を求める提言書を手渡した。新生児が急変して心肺停止に至る原因の精査と、適切な管理により予防や早期発見・転帰の改善が見込まれるケースへの対応の徹底、さらに新生児の栄養管理についての調査研究を求めている。

経過観察ない中で起こった心肺停止

 「患者・家族の会」参加者の大半は現在、医療機関や国を相手取り損害賠償を求める訴訟を起こしている。そのような中、さらに正常新生児の管理という問題を理解してもらうには社会的なアピールも必要として、6月2日のシンポジウム(関連記事)に続く行動を取った。

 小宮山洋子厚労相宛ての提言書を提出後、同省内で行った記者会見には福岡県の高次医療機関を提訴している女児の両親が出席。母親によると、高齢出産に重症妊娠高血圧症、37週での誘導分娩(ぶんべん)だった。さらに、生まれた女児は出生直後から顔色が優れず、うとうとする傾眠傾向が続いており、両親は何度も助産師に不安を訴えていた。しかし、診察や検査が行われることはなく、女児は出生12時間後に心肺停止状態で発見されたという。

 女児の脳幹は一部壊死(えし)しており、将来も回復の見込みはない。現在、気道切開と胃ろう(外から胃に直接水分や栄養を送る処置)の手術を受けて在宅看護をしているが、障害者手帳を申請しようとしても「3歳までは障害が固定しない」という理由で拒否されるなど、困難が続いている。

 女児の父親は、会見で「病院からは『心肺停止の原因は不明』『過去にこういった事例はない』と説明され、私たちも半ば受け入れていたが、実は同じ病院が同じような急変で訴えられていることを新聞報道で知った。調べると、同様の事例は全国にいくつもあった。"カンガルーケア""母乳保育""母子同室"と言葉は違っても、全てのケースに共通するのは、出生時は正常で健康な子供と判断されたこと、その後の経過観察がなされなかった中で起きた急変だった」と述べ、病院の説明や医療管理に疑念を抱くようになった経緯を説明した。

「日本の周産期医療は三流」

 わが国の周産期医療では、産科医が妊娠・出産中の母子の管理を、出生した子供に異常があれば新生児科医が管理を行う。異常がない子供は医師の目から離れ、助産師や看護師、母親が主な管理を担うことが一般的だ。背景には、病院側に診療報酬上のメリットがないことがあるが、一方で、出産直後の母親には子供の変化を観察する能力が期待できないことも指摘されている。

 会見に同席した産婦人科医の久保田史郎氏(久保田産婦人科麻酔科医院=福岡県=院長)は「日本の周産期医療は世界トップクラスといわれるが、実際は二流か三流。早産児や先天異常、異常分娩への対応が非常に優れている半面、正常に生まれた子供が異常にならないための予防的管理は全くなされていない」と指摘。

 訴訟に患者側の医師として協力する立場から、「カンガルーケアが良いのか悪いのか、動脈血酸素飽和度(SPO2)モニターで管理すればよいのかかどうかといったことは、本質的にはどうでもよい議論。問題は、子供の保温と栄養――顔色を診たり、体温を診たりという新生児管理の基本を怠り、母乳育児を進めるケアが優先される中で急変が起きていることだ。『原因は不明』とするばかりで、急変を察知できなかった安全管理体制を見直さないのはおかしい」と断じた。

 さらに「母乳保育の推進方法やカンガルーケアの安全管理に疑問を持つ産婦人科医や小児科医がいても、正常新生児は助産師の管理下にあるため口を挟めない」と、産婦人科医、新生児科・小児科医、助産師の3者が別々の考えで行動しているという、周産期医療独特の問題を指摘。一体となって安全管理を考えていく必要性を示唆した。

 なお、提言書は同日付で小宮山厚労相のほか、日本医師会、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本周産期・新生児医学会、日本助産師会など計10団体に提出されている。

(編集部)

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