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妊娠中でも乳がん治療は可能―ベルギー報告

 2012年06月27日 10:07

 ベルギー・ルーベンがん研究所・学際的乳がんセンターのFrédéric Amant氏らは、妊娠中の乳がん患者のほとんどが手術や化学療法を受けることが可能で、早産による子供への害を避けるためにも正期産(正常な時期の出産)を目標とすべきとする報告を、英医学誌「Lancet」(2012; 379: 570-579)に発表した。この論文は同号に掲載された妊娠中のがんに関するシリーズの2報目で、同氏らは妊娠中絶というデリケートなテーマに関して「中絶しても母親の転帰(結果)は改善しない」と論じている。

妊娠第2~3期で化学療法可能

 Amant氏らによると、妊婦の乳がん罹患(りかん)率は、同年齢の妊娠していない女性の罹患率と同等で、妊娠が乳がんリスクを上昇させるというエビデンス(科学的根拠となる研究結果)は存在しないという。しかし、妊娠によって乳房の肥大や乳頭分泌などの変化があるため、乳がんの症状は見逃されやすい。妊娠中の乳がんの診断は、妊娠していない女性と比べて遅い段階で診断されることが多く、転帰も不良となる場合が多い。

 放射線治療は一般的に妊娠中には推奨されず、特に胎児を放射線から守ることが難しくなる妊娠第3期(後期=およそ25~29週以降)では推奨されない。Amant氏らは、放射線治療を実施するかどうかは患者の状況に合わせて決定すべきと慎重な見方を示した上で、「放射線治療を行うために、胎児を正期産前に出産することを正当化してはならない」と指摘している。

 一方、抗がん薬などを使った化学療法は妊娠第2期(中期=およそ12~28週)から第3期であれば、妊娠していない女性と同じように標準的な治療を行うことができると強調。実際、妊娠14週以降の化学療法を支持するエビデンスは増えつつある。

 手術は一般的にどの妊娠期の妊婦でも問題なく行え、大半の麻酔薬も安全だという。手術を行う際には、外科医、麻酔科医、産婦人科医を含めた話し合いが必要で、術式の決定は通常のガイドライン(指針)にのっとるべきだとしている。

 出産後は、胎盤を検査してがん転移の有無をチェックすること、また化学療法中の母乳育児は避けるべきであることも忘れてはならない。

 Amant氏らは「中には進行がんによって母子ともに死の危機にさらされているような場合もあり、課題は残る」と指摘。妊婦ががんを克服して生き延びることができないケースでは、その夫が残された子供を育てる自信がないという理由で中絶を選択する場合もあるようだ。

 しかし、同氏らは「今回の研究で得られた新しい知見は、がん治療の進歩を促し、大半の例で母子双方に希望を与えるもの」とし、「母親は自らのためだけでなく、自分の子供のためにも闘っている。ほとんどの母親はこれまで以上に意を強くし、がん治療とその副作用に立ち向かう意欲がわくだろう」と付け加えている。

未熟児問題が最大の懸念事項

 Amant氏らは「妊娠中に乳がんと診断された場合、子供がすでにいるかどうか、現在の妊娠を継続したいという希望、夫の意見、予想される転帰などの要因が、患者の反応やその後の選択に影響する。医師は、患者とその夫には治療の選択肢を伝え、中絶しても母体の転帰が改善するわけではないこと、それでも妊娠を継続するか中絶するかは個人の判断で決めることを説明すべき」と述べている。

 また、「妊娠中の乳がんは緊急事態ではなく、時間をかけて専門医のチームに相談しても予後が悪化することはない。最初に考慮すべきは、胎児の放射線被ばくを軽減することだ」と強調している。

 さらに、妊娠中の乳がん治療を左右する病期(ステージ)分類を目的とした検査は行うべきとし、妊娠により乳腺構造が変化しているため、診断にはベテランの医師が当たるようにと付け加えている。最後に、Amant氏らは「妊娠中に乳がんの病期分類と治療は可能で、さまざまな領域の専門医がそろった環境で行われるべき。がんの治療を行うことによって早産の必要性を減らし、その結果としての未熟児出産を減らすことができる。この未熟児問題こそが、妊娠中の乳がん管理における最大の懸念事項だ」と結論している。

(編集部)

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