禁煙ワクチン研究開発進む、子供への接種は議論必至か
2012年07月04日 09:59
「禁煙ワクチン」とも呼ばれるニコチンワクチンが注目される中、米コーネル大学医科大学院のMartin J. Hicks氏らが新たなワクチンに関する動物実験の結果を、6月27日付の米科学誌「Science Translational Medicine」(電子版)に報告した。この実験では、マウスへニコチンワクチンを1回接種したところ、接種していないマウスに比べて脳内のニコチン濃度の上昇が85%抑制されたとの結果などが示されている。Hicks氏らは「ヒトでの有効性が認められれば、ニコチン依存症の効果的な予防治療となり得る」と結論。海外メディアの中には、今後ニコチンワクチンが喫煙開始前の子供に接種される可能性に言及し、それに関連した倫理的な問題の可能性を指摘するものもあった。禁煙希望者への応用が期待される一方で、実用化が近づけば、喫煙開始前の子供を含め誰が接種対象者になるのかという議論が繰り広げられることも予想される。
第4の禁煙補助療法となるか
ニコチンワクチンの仕組みは、喫煙などによって体の中に入ったニコチンがワクチン接種された抗ニコチン抗体と結合するため、脳内にあるニコチンを受け止める部分(受容体)に到達できないというもの。これにより、喫煙することで得られる快楽などの依存症状が出ないと考えられている。
すでに喫煙者を対象とした臨床試験の結果も出始めており、禁煙補助薬などに次ぐ新たな選択肢として開発が進んでいる。これまで使用されているカウンセリングやニコチン貼付剤(商品名ニコチネルTTS)、抗うつ薬(bupropion)、ニコチン受容体部分作動薬(バレニクリン=商品名チャンピックス)のいずれも一定の期間を過ぎると、「ほとんど効果がない上、深刻な副作用が報告されているものもある」(Hicks氏)という。
Hicks氏らが開発したワクチンは、従来型のワクチンで課題とされていた血液中の抗ニコチン抗体の十分な上昇とニコチンへの結合力を増強。1回のワクチン接種により、接種していないマウスに比べて長期間の抗体持続期間、抗体上昇などが確認され、ニコチンを体内に入れた後の脳内のニコチン濃度上昇が85%抑制された。従来のワクチンと比べても、1回の接種による抗体上昇が速いなどの違いも示されている。
今回の結果からHicks氏らは、今回使ったワクチンの臨床的検討を進める妥当性が示されたと評価。もし、ヒトでの有効性が示されれば、ニコチン依存症の予防治療となり得るだろうとしている。
先行薬は臨床試験で差を示せず
この研究を取り上げた英放送局BBCニュースの記事では「もし、こうしたワクチンの実用化が進めば、喫煙開始前の子供を含む、接種対象者に関する倫理的問題も浮上してくるだろう」と記者がコメント。英紙デーリー・メールでは「A jab to quit smoking: 'DNA vaccine' will halt nicotine cravings and could even be used to stop children starting the habit(禁煙へのジャブ=接種:DNAワクチンはニコチンの欲求を止め、子供の喫煙習慣開始を止めることさえできる)」と、子供への使用の可能性を直接的に見出しに含めて報じている。
なお、開発が先行しているニコチンコンジュゲートワクチン(商品名NicVax)の臨床試験の結果が昨年に発表されたが、安全性などに問題はなかったものの、ワクチンを接種したグループと偽薬を接種したグループで禁煙率の差が示せなかった。とはいえ、米国では政府が積極的に開発を支援しており、オランダではバレニクリンとの併用による臨床試験が進行中という。
(編集部)