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どうなる日本の風疹対策、制圧達成した米国の事例から探る

 2012年08月21日 15:23

 日本だけでなく、世界でも風疹(三日はしか)の流行が抑えられていない地域は少なからず存在する。一方、2004年に米国は世界に先駆けて風疹の制圧を達成した。風疹の制圧にはワクチンの接種率上昇が不可欠とされるが、過去には日本と同様、接種率が不十分なまま成人期を迎えた人を中心に、職場などでの集団発生が起こっていた。その時期に米国ではどんな対策が取られていたのかを探ってみた(関連記事)。

最新の風疹(三日ばしか)発生報告数と年間推移を見る

ワクチン登場前の死者は1万人以上

 2004年、世界に先駆けて風疹の制圧に成功した米国では一体どのような対策が行われていたのか。米疾病対策センター(CDC)によると、1962~65年に起きた世界的な風疹流行で、米国ではおよそ1,250万人が発症し、そのうち2,000人が脳炎を合併、1万1,250人が死亡、2,100人の新生児死亡、2万人に上る先天性風疹症候群(関連記事)が発生した。風疹ワクチンができたのは、この4年後の1969年。ワクチンが登場する前、風疹は決して軽い感染症ではなかったといえる。

 その後、最もかかる割合が高かった子供への風疹ワクチンの1回接種が導入され、先天性風疹症候群の予防を目的とした思春期の女性へと接種対象が拡大。風疹や先天性風疹症候群の報告数が減少する一方で、風疹にかかる中心年齢が子供から青壮年期へと移行し、学校や医療現場、職場などでの集団発生が起こるようになった。

 これを受けて、1978年頃からワクチンの接種対象を大学生や職場で感染の可能性がある人などへと拡大。さらに、麻疹(はしか)・風疹混合ワクチン(MRワクチン)、MRワクチンにムンプス(流行性耳下腺炎=おたふくかぜ)を加えた3種混合ワクチン(MMRワクチン)を導入し、1989年には「国内の風疹と先天性風疹症候群を2000年までに排除する」との目標を設定し、MR、MMRワクチンの2回接種導入など、国を挙げて積極的な取り組みが行われた。

 2000年頃からは風疹・先天性風疹症候群のほとんどが国外で出生した例となり、2004年にはCDCが1年以上国内で風疹伝播が見られない「排除」状態を達成したと結論付けた(IASR 2006; 27: 104-105)。

銀行で集団接種キャンペーン

 風疹排除を目前にした時期、米国ではどのような取り組みが行われていたのか。1980年代に報告された事例一つに、1983~85年にニューヨーク市内の銀行で起きた風疹の集団発生に関する報告(「American Journal of Public Health」1987; 77: 725-726)がある。当時、同市内ではこの銀行を含む5つの地区で風疹が集団発生、市健康局の調査の結果、患者265人の4割が妊娠年齢(15~44歳)の女性だったほか、若年成人の多くのワクチン接種歴が十分でなかったことが明らかになった。

 この集団発生に伴い、市健康局は先天性風疹症候群発生の恐れがあるとして、妊娠の可能性がある女性への風疹抗体検査に加え、銀行の全行員のおよそ4割に当たる2,362人に対し、4日間の集団接種キャンペーンを実施。報告した市健康局の医師、Andrew K. Goodman氏らの示した試算では、風疹の集団発生で失われたコストの中で最も多くを占めたのは行員の休業であり、ワクチンや検査費用はその5分の1程度にすぎなかった。

 さらに、この集団発生で生じた先天性風疹症候群の治療や介護にかかったコストは不明とされているが、先天性風疹症候群が1例発生した場合の生涯コストは職場で失う利益をはるかに上回るとの試算も示されている。Goodman氏らは「職場での風疹集団発生で生じる妊娠女性への感染および職場の混乱や従業員の休業は、全従業員の免疫状態を確認することで防げる」と結論。職場での取り組みを進める上で、産業医の役割が重要との意見を述べている。

日本の現状は...?

 日本での現状はというと、米国での過渡期に重なる部分がある。2008年度からは若年者の接種率向上のため、中学1年生に相当する3期、高校3年に相当する4期へのMRワクチン2回目の定期接種を開始。ただし、この時限措置は今年度末(2013年3月31日)で終了する予定だ。

 その後の方針は現時点で不明だが、この5年間で3期、4期の定期接種を受けなかった人がそれぞれ、毎年約20%ずつ発生していることも感染研の調査で明らかになっている。これらの人が麻疹や風疹に対する抗体が不十分なまま青壮年期へと移行する可能性は高く、今後、成人を対象としたMRワクチン接種率向上への取り組みはますます重視されるだろう。

 感染研は昨年の報告で、日本のMRワクチンの3期、4期の定期接種率を上げるためには文部科学省との連携が、また妊娠を希望する女性や妊婦の家族へのワクチン接種が必要と提言。さらに、職場内での風疹集団発生の予防には産業医との連携も視野に入れることが重要としている(IASR 2011; 32: 250-252)。

(編集部)

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