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糖尿病治療のおはなし〜はじめに〜

 2012年10月12日 14:54

 糖尿病の患者さんはいま、世界中で増加しています。日本でも男性の6人に1人、女性の11人に1人が「糖尿病と言われたことがある」と推計されるほど"一般的な病気"ですが、このうちきちんと治療を受けている人はたったの6割前後※。30~40歳代など若い世代ほど、一度も治療を受けていない人や、治療を中断している人が多くなっているのです。しかし、治療開始が早ければ早いほど効果があり、将来の合併症を予防でき、薬の数が少なく済み、お財布にも優しいのが糖尿病という病気です。かつては「糖尿病の治療は一生続く」と考えられていましたが、最近は発症早期の集中的な治療によって、糖尿病になる前の状態に戻すこともできるようになりました。それが、「適切なタイミングでのインスリン治療の開始」です。ここではその詳細をご紹介します。

※ 厚生労働省平成22年国民健康・栄養調査結果の概要、「糖尿病といわれたことがある者の割合」「糖尿病があるといわれたことがある者における、治療の状況」の推計。いずれも30歳以上のデータ

1. インスリンって何?

インスリンの不具合で起こる糖尿病


 血糖値が高くても患者さんに自覚症状はほとんどありませんが、放置できない理由はその先にある合併症。血糖値が高い状態が続くと、動脈硬化が進んで、死亡や寝たきりに直結する心筋梗塞や脳卒中を起こす危険性が極めて高くなります。細い血管の血流が悪くなるために起こる網膜症や神経障害、腎障害もあり、失明や足の切断、透析といった重い障害につながります。糖尿病とは関係のない病気、感染症、ケガで治療をすることになっても、血糖値が高い状況だと治りが悪くなります。このように、糖尿病はじわじわと、しかし着実に、患者さんの体を蝕(むしば)んでいくのです。

 糖尿病とは、血液中のブドウ糖の割合(血糖値)が高くなり過ぎる病気です。その原因は、血糖を調整するホルモン「インスリン」の不具合。自分の膵(すい)臓のインスリン分泌細胞が"異物"と認識され、完全に破壊された状況の"1型糖尿病"という病態もありますが、患者さんの95%以上は、2型糖尿病です。食べ過ぎや運動不足、肥満、ストレスなどによって全身でインスリンの働きが低下すると、インスリンを分泌する膵臓の中にあるベータ(β)細胞がオーバーワークとなってやがて疲労し、インスリンを必要な量だけ分泌できなくなり、血糖の調整ができなくなって発症します。

インスリンの働きを補って血糖値を調整する

 糖尿病の治療は、こうした合併症を予防するために、食事の過剰摂取を抑えながら、病気の原因であるインスリンの分泌不足や作用不足を補い、血糖値を調整する目的で行われます。

 糖尿病の治療では、食事療法と運動療法が必須です。しかし、インスリン分泌がかなり低下していたり、インスリンの働きが高度に低下していたりする場合には、薬を使った治療を始める必要があります。

 飲み薬(経口薬)には、β細胞に働き掛けてインスリンの分泌を促すもの(スルホニル尿素薬やグリニド薬など)、食事で取る炭水化物の分解、吸収を遅らせるもの(α-グルコシダーゼ阻害薬)、インスリンの働きを高めるもの(ビグアナイド薬)、インスリンの作用を改善するもの(チアゾリジン薬)、消化管ホルモンを介してインスリン分泌を働き掛けるもの(DPP-4阻害薬)などいくつかのタイプがあります。治療では、これらの薬を患者さんの状態に合わせて処方し、血糖値をコントロールしていきます。

"インスリンは最後の手段"は昔の話

 これらの経口薬を使っても高血糖が改善しない場合に、インスリン治療が登場します。血糖値を測定しながら自分で注射しなければなりませんが、何といっても足りない量のインスリンを直接補う治療法ですから、血糖値をコントロールする効果は糖尿病治療薬の中で最も高くなります。

 実は、インスリン治療には血糖値をコントロールする以上の効果もあります。血糖値を良い状況に保っていると、今まで疲労困憊(こんぱい)しつつ働いてきたβ細胞に休憩時間を与えることができるのです。まだβ細胞に回復力が残っているうちにこの休憩を与えると、β細胞がインスリンを再び分泌する能力を取り戻すことができるのです。うまくいけば、一生続けなければならないと思っていた薬物療法を中止することもできます。これが適切なタイミングでのインスリン治療の開始です。

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