「HIV感染児治癒」の衝撃度、米英当局の発表から探る
2013年03月05日 19:13
「エイズウイルス(HIV)陽性の母親から生まれた2歳半の女児が、出生直後から約1年の治療で治癒」―。3月4日、国際学会での報告が世界の主要メディアで大々的に報道された。骨髄移植でHIV感染が治癒した成人男性(関連記事)に続く症例とも取れる表現もあったが、この報告の衝撃度はどのくらいなのか、米当局の発表と英当局の報道検証レポートから探った。英当局からは、報道に対して慎重論も出ている。
米当局「HIV機能的治癒の初報告」
今回のニュースは、3月3~6日に米アトランタで開催された「第20回レトロウイルス・日和見感染症会議(CROI 2013)」で、米ジョンズホプキンス小児センターのDeborah Persaud准教授らの症例報告「感染児への超早期ART後のHIV機能的治癒」の発表に基づいたもの。ARTとは、HIVの治療薬である抗レトロウイルス薬を使った治療法のことだ。報告の抄録では「骨髄移植により、HIV感染が治癒した1例の成人に関する報告がある」との書き出しから、女児の症例を紹介している。
女児の母親はHIVに感染しており、女児も出生前の検査で母親からのHIVが感染していることが分かっていた。生後30時間から、3種類の抗レトロウイルス薬(ジドブジン、ラミブジン、ネビラピン)を使った治療を開始。生後1週で退院した時点からは、ネビラピンに代わりロピナビル・リトナビル配合剤を含む4つの薬を使ったARTが、1歳半となる2012年1月まで行われた。
しかし、母親は何らかの理由で女児への投薬を中断。一方、生後20日までに行われた3回の検査ではHIV陽性だったものの、生後29日にはHIV量が他人に感染させる可能性が極めて低いとされる血液1ミリリットル当たり50コピー以下に減少、2歳過ぎの検診時点ではさらに、検査機器で検出できないとされる同20コピー以下となった。同時に行われた超高感度検査でも、HIVウイルスの遺伝子量ともにかなり低い値だったという。
今回の研究報告に協力した米国立衛生研究所は「ARTの中止にもかかわらず、ウイルス量が検出限界以下で発症の徴候もない、HIVの"機能的治癒"に関する初の報告」「今後の臨床研究で、超早期ARTの有効性が検討できるのか、検証が必要」といった研究者のコメントを紹介している。
英当局「報道は時期尚早」
一方、英国保健サービスが3月4日に掲載した「Reports of 'HIV cure' are premature(HIV治癒の報道は時期尚早)」では、「HIV感染の完全な治癒が発見されたということではない」と、念を押すように二度も言及。
標準検査ではウイルスが検出できないが、超高感度検査ではかなり低いながらも検出されていると説明。今後も女児には定期的なHIV量の検査は必要で「このまま健やかに成長してくれることを願うものの、HIV量が上昇すれば再びARTを行う可能性はある」とも指摘している。
とはいえ、今回の結果がこの女児に特有だったのか、他の同じような小児でも同様の結果が得られるのか明らかになれば、「途上国でのHIV感染児の減少に寄与する可能性はある」との希望的コメントも最後に付け加えている。
(編集部)