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風疹流行「成人男性の職場での予防接種も一手」(風疹流行は止められないのか2)

 2013年04月08日 12:00

 風疹(三日ばしか)の地域流行拡大から3年目。妊娠中に風疹に感染すると子供が心臓や耳、目などの先天障害を抱えて生まれる可能性があるが、その「先天性風疹症候群」が2011~13年ですでに8例報告されている。風疹にかかる可能性があるかは妊婦健診で検査されるものの、先天性風疹症候群を含めて根本的な治療法はなく、ワクチンで予防を図るしかない。さらに、風疹が流行すれば「先天性風疹症候群のリスクを恐れた人工妊娠中絶の増加」という少子化対策に取り組む国として見過ごせない問題も出てくる。母子感染の専門家として、産科からの相談窓口を担当する三井記念病院(東京都)産婦人科の小島俊行部長は、今回の流行で風疹に感染した妊婦の数はこれまで経験したことのない多さと指摘。今後、さらに先天性風疹症候群の発生が増えるのではないかとの懸念を示した。また「妊婦の夫だけでなく、20~40歳代の男性全体が予防接種を受ける必要がある」として、「職場でのワクチン接種も一つの方法ではないか」と提言している。

最新の風疹(三日ばしか)発生報告数と年間推移を見る

「顕性感染」妊婦の数が増加

 先天性風疹症候群で発生する病気は、心臓病や難聴、白内障のほか、網膜症や肝脾腫(ひしゅ)、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞など、治療に本人や家族に長期間の大きな負担が掛かるものが少なくない。先進国では「先天性風疹症候群による個人や社会の負担は予防接種の費用を大きく上回る」との考えから、麻疹(はしか)と同時に風疹の制圧を図るため、国民の予防接種率を95%以上に維持する取り組みが進められている。

 小島部長によると、流行前の2008~11年に行われた風疹の検査では、100日~1年以内に感染したと思われる人は約2.5%だったのに対し、流行が本格化した昨夏以降には通常の3倍に上昇。今年の1~2月には10%を超え、通常の4~5倍にまで増加した。また、40~60日以内に感染したと思われるの人も、この5年間にない割合で増えていたという。この検査は妊婦を中心に行われていることから、同部長は「妊婦の間で風疹感染例が増えているのではないか」と推測している。データを提供した検査会社も、今年は最大規模の流行になる可能性を指摘しているようだ。

 小島部長の下には風疹感染の疑いがある妊婦が年間20~40例紹介されているが、1997~2010年は症状が出ている人(顕性感染)がゼロだったのに対し、2011年以降は7人。また、2004年の流行以降、先天性風疹症候群の報告はほとんどなかったにもかかわらず、今回の流行では8人に上っている。同部長は「3月でこのペースなら、今後どうなるか分からない」と、さらなる増加を懸念している。

「入学・入社時の予防接種歴確認も必要」

 小島部長の下を訪れた妊婦の感染経路(推定)は、2011年は「中国やベトナムなど海外で」、2012年は「夫や妊婦の職場の同僚から」だったのに対し、今年は「不明」へと変化。流行のまん延を実感しているという。中には、夫の「不顕性感染」(感染しても症状が出ない状態)が原因と推定されたケースもあったようだ。風疹そのものはワクチンの2回接種でほぼ防ぐことができるが、先天性風疹症候群はワクチンを接種した妊婦や過去にかかったことがある妊婦でも起こることが知られている。

 なお、妊婦が風疹の抗体を持っていると分かった場合、産科二次施設への紹介が行われる。さらに、希望があれば羊水の検査による診断が行われ、妊娠を継続するかなどが話し合われる。羊水の検査では、胎児の風疹感染をかなり正確に判定できる一方、検査自体にもわずかながら流産のリスクはあり、母子への負担は小さくない。

 また、風疹が流行すると子供が先天性風疹症候群になることを恐れ、人工妊娠中絶が増えることが知られている。最近では高齢や不妊治療による妊娠も増えているため、ようやく妊娠にこぎ着けたにもかかわらず、風疹母子感染により妊娠継続の選択に直面し、精神的に追い詰められるケースも発生しているという。

 妊婦の風疹感染を減らすための方策として、風疹抗体の低い妊婦は妊娠20週までの外出制限や夫へのワクチン接種が推奨されている。小島部長は、風疹に感染した妊婦を診療する機会が増えるに従い、「胎児へのウイルス伝播を防ぐため、妊婦の夫だけでなく、流行の中心である20~40歳代の男性全体がワクチンを受ける必要がある」と強く考えるようになったという。同世代の男性の予防接種率を上げる方法の一つとして、「職場での接種」も検討すべきと提言。また、長期的な流行予防策として入学・入社時の予防接種歴あるいは抗体価の確認を義務付けていくことも必要との考えを示した。

(編集部)

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