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頭を使うだけでDNAにダメージ―米動物実験

 2013年04月17日 18:30

 アルツハイマー病など中枢神経(脳と脊髄)の細胞が死んでいく「神経変性疾患」は、放射線や活性酸素などによってDNAが傷を負い、それを修復する機能が年齢を重ねることによって低下し、DNA損傷が蓄積することによって起こると考えられてきた。しかし、DNA損傷が正常な神経活動によって引き起こされ、神経変性疾患の場合はさらにその傾向が顕著になるとの動物実験の結果が、米国の研究グループによって3月24日発行の英科学誌「Nature Neuroscience」(電子版)に報告された。つまり、頭を使うだけでDNAがダメージを受けるということになる。もちろん、健康な人の場合、この損傷は速やかに修復されるため、頭を使えば使うほど早く認知症になるというわけではないのでご安心を。

環境を変えるとDNA損傷が増加

 遺伝情報が書き込まれているDNAは、細胞分裂の際や紫外線、放射線、活性酸素などで損傷してしまう。DNA損傷が起こるとさまざまな病気を引き起こすが、これを防いでいるのが修復機能だ。しかし、この修復機能も、年齢を重ねることによって衰えてしまう。するとDNA損傷がどんどん蓄積していって、アルツハイマー病やがんなどを引き起こすといわれている。

 今回の研究結果を発表したのは、ノーベル賞受賞者の山中伸弥氏が籍を置く米グラッドストーン研究所のLennart Mucke氏ら。同氏らは、マウスを住み慣れた飼育籠から2時間だけ新しい籠に移し、見慣れない環境やにおい、感触などを味わわせたところ、脳のあらゆる部位、特に記憶に関わる「海馬歯状回」の神経細胞でDNA損傷が3~10倍増加することを見いだした。DNA損傷は神経以外の細胞ではほとんど見つからず、またマウスを元の籠に戻すと24時間以内に、環境を変える前と同じ程度の数に戻ったという。

 ストレスと活性酸素はDNA損傷を引き起こす原因とされているが、副腎を取り出してストレスホルモンが分泌できなくなったマウスや、活性酸素の元を取り除いたマウスでもDNA損傷が認められた。つまり、今回のDNA損傷にストレスや活性酸素が影響していないことが示されたのだ。

DNA損傷は"頭を使うこと"に必要か

 こうした一時的なDNA損傷が、"頭を使うこと"(神経活動)の単なる副産物なのか、それとも神経活動に必要なものなのか。残念ながら今回の研究では明らかになっていない。しかし、アルツハイマー病を発病させたマウスの実験では、環境を変えるなど神経を刺激していないときのDNA損傷が何も手を加えていないマウスの2~3倍多く、修復にも時間がかかることを見いだしている。

 また、アルツハイマー病患者で多いアミロイドβ(ベータ)というタンパク質がDNA損傷に影響し、頭を使うことに関わる遺伝子のコントロールにも影響している可能性が示された。とすれば、やはり一時的なDNA損傷が、"頭を使うこと"に必要な何らかの役割を果たしているのだろうか。今後の研究に期待したい。

(サイエンスライター・神無 久)

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