RAの適応で増える生物学的製剤、特徴さまざま
2013年05月08日 13:00
関節リウマチ(RA)における「目標に向けた治療(Treat-to-Target;T2T)戦略」の治療目標となる寛解・低疾患活動性を達成する上で、メトトレキサート(MTX)や生物学的製剤(Bio)は欠かせない。Bioについては、わが国でも7製剤使用できるようになった。リウマチ専門医でもその選択に迷うことがあると指摘する京都大学病院リウマチセンター特定准教授の藤井隆夫氏は、第57回日本リウマチ学会総会・学術集会(4月18~20日、京都府)で、2011年までに承認されたBio 6製剤の特徴を解説した。サイトカイン抑制に伴う貧血の改善や抗Bio抗体ができにくいなど、Bioといっても各製剤の特徴や投与方法など実にさまざまだ。
Bioフリー、早期の関節破壊抑制のエビデンス
「2010年リウマチ白書」によると、手術を受けたRA患者は42.0%に上り、そのうち21.5%が5回以上の手術歴であったという。これについて藤井氏はショッキングなデータだと述べ、関節破壊抑制に向け診断早期からのMTXやBioによるtight controlの重要性を指摘した。
RAの治療効果を押し上げてきたBioは、同じ腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬であっても構造、投与法、効果発現速度などは異なる。また、同薬以外のインターロイキン(IL)-6阻害薬とT細胞選択的共刺激調節薬でも特徴が全く異なる。例えば、TNF阻害薬のインフリキシマブでは、Bioフリーや効果不十分例における増量効果などの特徴がある。
再燃や再投与による投与時反応への注意は必要だが、RRR試験では同薬を休薬した対象の55%が1年間後も低疾患活動性(DAS28-ESR<3.2)を維持していた。また、投与10週時点で欧州リウマチ学会(EULAR)改善基準がno response(12%)であった患者を、用量継続群(3mg/kg)および増量群(6mg/kg、10mg/kg)に分けて評価。no responseの割合はそれぞれ90%、44%、0%となり、増量に応じて減少した。
「インフリキシマブ増量の決定は10週が目安。安定すれば投与間隔が2カ月ごとになるため、患者の時間的・経済的負担が軽減される」(同氏)
アダリムマブもBioフリーのエビデンス(HONOR試験)の他、発症2年以下のRA患者における同薬+MTXによる関節破壊の進展抑制効果が示されたHOPEFUL 1試験がある。52週後のDAS28-ESRは、対照のMTX単独群と差はなかったが、構造的寛解(ΔmTSS≦0.5)を達成した患者の割合はMTX単独群の42.9%に対し、アダリムマブ群では65.9%と有意に抑制されていた(P<0.001)。関節破壊は発症早期から起こるが、同試験対象の平均罹病期間は0.4カ月であったことから、アダリムマブにおける超早期の関節破壊抑制効果を示した試験となった。
継続率の高さやスイッチ例での効果も
エタネルセプトは他のBioと異なり、免疫原性が低いという特徴がある。同薬やアダリムマブ、インフリキシマブの治療継続を評価したLORHENレジストリーによると、無効による脱落のハザード比(HR)は、エタネルセプトに対しインフリキシマブ群で1.70(95%CI 1.06~2.70、P=0.027)であり、有害事象による脱落のHRはアダリムマブ群で2.09(同1.29~3.38、P=0.003)と、いずれも有意に多かったという。エタネルセプト投与患者の継続率が高いのは、免疫原性の低さによるものだと藤井氏は指摘する。
ゴリムマブは2011年7月に承認された新しいTNF阻害薬。つまり、同薬が投与される患者の多くは、既存のTNF阻害薬からのスイッチ例ということになる。しかし、スイッチ例においてもゴリムマブのACR20改善率はプラセボ群に比べて高いことがGO-AFTER試験で示された(前治療1剤;38.0% vs. 20.0%、2剤:38.0% vs. 16.0%)。
また、ゴリムマブがACR20を80%満たす薬剤濃度基準値として0.4μg/mLが算出されており、投与24週以降もこれを下回らなかったことから、同氏は「ゴリムマブは抗バイオ抗体ができにくいのではないか」としている。
head to head試験の実施、副作用発現率のエビデンスが集積
TNF阻害薬以外のBioとして、トシリズマブとアバタセプトがあるが、トシリズマブは破骨細胞の活性やメサンギウム細胞の増殖、皮膚角化細胞の増殖など、さまざまな生理活性作用に関わるIL-6の受容体を阻害する。炎症性貧血もIL-6の作用によるもので、炎症によってIL-6などのサイトカインが誘導され、鉄代謝を制御するヘプシジンの産生が亢進することで、慢性炎症性貧血を来す。そのため、トシリズマブではIL-6受容体阻害による貧血の改善が期待でき、藤井氏らも重度の貧血を合併したRA患者にトシリズマブを投与したところ、ヘモグロビンが改善したという。
また、Bioナイーブ例対象のトシリズマブとアダリムマブのhead to head試験ADACTAでは、トシリズマブ投与群で24週のDAS28スコアの平均変化量の有意な低下が示された(-3.3 vs. -1.8、P<0.0001)。
一方、アバタセプトは市販後全例調査の最終解析結果が今学会で公表された。同氏は、アバタセプトは他のBioと比べて感染症の報告が非常に少ないという特徴があると指摘する。有効性に関してはアバタセプトでは赤沈(ESR)の変化が少ないという印象があるが、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-3に関しては4週時点で良好な値が得られ、厳格な基準となるSimplified Disease Activity Index(SDAI)による寛解(≦3.3)達成率は、4週後4.2%、12週後10.4%、24週後16.0%と、他のBioと遜色ない成績が得られている。
これらの成績は、同氏の施設を含むわが国の多施設共同で実施したABROAD試験で示された。その他、アバタセプトの寛解(SDAI≦3.3)の予測因子は罹病期間1年未満、CCP抗体高値例などであることも明らかになった。
治療の最終的な判断は患者と医師の合意で
RA診療でT2Tの概念は医師の間で浸透しつつあるが、患者側での浸透は十分でない。藤井氏は、T2Tではtight controlが重要だとする患者教育がまだまだ必要だと指摘する。
ただし、T2Tの基本は「RA治療は、患者とリウマチ専門医の合意に基づいて行われるべき」ということ。tight controlが重要だからといって、副作用を心配する合併症を有した患者や、これ以上の日常生活動作(ADL)の拡大を望まない高齢患者の希望を聞かずに、検査値だけでT2Tを推し進めるものではないと述べた。
(編集部)