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福島で被災した子供たちの未来を考える

 2013年05月10日 18:00

 2011年3月11日に発生した東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故から2年、放射線漏れは福島県の子供たちにどのような影響を与えるのか。1986年に旧ソ連(現ウクライナ)で発生したチェルノブイリ原発事故後、15年にわたって隣国ベラルーシで子供たちの甲状腺がんの検診、治療に当たってきた日本医科大学大学院医学研究科の清水一雄教授(内分泌外科)は3月19日、東京都で開かれた第25回高田塾(代表=日本テレビ解説委員・高田和男氏)で、ベラルーシでの医療支援活動を踏まえ、福島県で被災した子供たちの影響について語った。

事故後に小児甲状腺がん急増

 チェルノブイリ原発事故では事故後、ソ連政府は2週間以内に原発から半径30キロ圏内の13万5,000人に強制避難を命じた。この際に、事故処理に携わった消防士、原発職員など31人が急性放射線障害で亡くなった。

 その後、現地でどんな被害が起きているかについての情報はなかったが、4年が経過した時点で小児甲状腺がんの急増が報告された。この報告によると、小児甲状腺がんは原発事故前11年間(1975~85年)では7例だったのに対し、事故後の11年間(1986~96年)では508例と、実に73倍にも達している。成人についても、事故前後で甲状腺がん発症が約3倍に増加したという。小児甲状腺がんは、10万人に2~3人といわれており、ベラルーシの小児甲状腺がんは人口から見ても異常な数字である。

 また、ベラルーシにおける甲状腺がん患者1,467例の事故時の年齢分布を見ると、0~3歳が圧倒的に多く、6歳までが半数以上を占めた。さらに、経年的に各年齢層の甲状腺がん発症数を見れば、事故後4年後に増加し、事故当時0~6歳だった世代に全体の患者数の半数以上が集中している。

 こうしたデータを踏まえ、清水教授は「小児甲状腺がんは15歳までを小児と扱われるため、例えば、当時13歳だった子供が大人になって甲状腺がんを発症した場合などは当てはまらない。また、医師の診断技術の向上や検診機会の増加といった要因を考えると、必ずしも事故による被ばくに伴う増加とは言えず、今後も継続して追跡調査をすることが必要」と述べた。

福島でがんは増えるのか

 チェルノブイリ原発事故のデータを解析した上で清水教授は、福島原発事故で被ばくした子供たちの小児甲状腺がんについて「規模の違いやヨード環境から、小児甲状腺がんが増加するかどうかについては、現時点では予測ができない。また、チェルノブイリ原発事故後、甲状腺がんが増えたことは世界中で知られているが、甲状腺がん以外に悪性腫瘍が増えるのかどうかについては、きちんとしたデータが現時点ではない。特にがんになるリスクは、放射線以外にも考えられる」と述べた。

 その一方で、「チェルノブイリ原発事故後、はっきりしているのは精神疾患が顕著に増えたこと。ストレス、子供や親のがんに対する恐怖など、福島でも精神疾患が増えると考えられ、精神疾患に対するケアが必要だ」と話す。

 世界保健機関(WHO)が2月28日に発表した、福島原発事故が健康に及ぼす影響についてまとめた報告書では、第一原発周辺の地域で放射線を浴びた子供について、一生のうちに白血病、乳がん、甲状腺がんを発症する確率が一般に比べてわずかに高まるとしたほか、恐怖、不安、うつといった心理的影響からの心身症や精神疾患に至る可能性を指摘している。ただし、最終的な影響は先にならないと分からないとしており、継続した調査が必要だ。

チェルノブイリの教訓を生かす

 チェルノブイリや広島・長崎とは規模やヨード環境で比較はできず、今後どうなるか分からないため、世界中が日本の対応に注目している。日本がベラルーシで医療活動を支援してきた結果、日本、福島を憂慮し、これまでの活動を還元しようとする動きもある。こうした中で日本に求められているのは、「チェルノブイリの教訓を生かし、継続した検査を行い、検証し、その結果を世界に発信するが日本の義務」と清水教授は話す。

 福島県では、原発事故時に18歳以下だった県民36万人を対象に健康手帳を配布し、継続的な甲状腺の健康調査を実施している。清水教授も、福島県の被ばくした子供たちが、成長後も県内にいる可能性は低いが、健康手帳があれば費用を国が負担し、どこでも検査ができるという仕組みを歓迎するとした上で、「今後検診を推進するための医師や検査技師不足も含めた検診・治療体制の整備と、被ばくしていない同じ世代の小児を検査し、被ばくした子供たちの検査結果と比較して検証することが重要」と語り、講演を締めくくった。

(医療ライター・井家 真人)

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