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日本は風疹排除の機会をまた見過ごすのか?

 2013年06月25日 11:30

 日本では3年前から始まった成人間の風疹流行。日本より7年早い1969年に風疹予防接種を導入した米国は、2004年に風疹と先天性風疹症候群の国内排除を達成した。排除を達成したのは米国やカナダだけではない。中南米を含む南北米大陸の報告は、2009年2月の症例が最後。一方、米国が排除を達成した2004年、流行のさなかにあった日本では、昨年から再び大規模な流行が起こり、先天性風疹症候群が続発している。今後、日本はどう対策を取るのか―。

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米大陸35カ国の風疹排除「若者・大人への緊急対策」がカギ

 米国で風疹ワクチンが導入されたのは1969年。当初、流行の中心だった子供への予防接種(定期接種)を開始してから、妊婦、学生、会社員や渡航者と接種の勧奨対象を広げ、35年かけて排除を達成した。

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南北米大陸と日本の風疹・麻疹対策の変遷
(クリックして拡大)

 南北米大陸では2009年以来、風疹患者は報告されていない。今年に米国で3例の先天性風疹症候群が報告されたが、いずれも国外から入ってきた輸入例だ。麻疹の国内発生も2002年以降ゼロとなっており、昨年から世界保健機関(WHO)などによって「麻疹、風疹、先天性風疹症候群」に対する排除認定の評価が進められている。

 35カ国を含む南北米大陸全体での風疹排除の背景には、中南米の国々で子供への予防接種導入後に起きた若者や大人の風疹流行がきっかけの緊急対策があった。大人の風疹流行は妊婦にとって先天性風疹症候群の危機である一方、各国当局は風疹を排除できるチャンスと捉え、緊急接種キャンペーンを実施。南北米大陸全体での排除を成功させた。中南米の国々の取り組みを紹介する。

コスタリカ:大人への1カ月間の緊急接種で麻疹も排除

 米国に先駆けて、風疹と麻疹の国内発生をゼロにした国がある。コスタリカでは1999年、風疹にかかったことや予防接種を受けたことのない15~45歳で大規模な風疹の流行が起き、30例の先天性風疹症候群が発生した。これを受け、保健当局は2001年5月の1カ月間で15~39歳の国民を対象とした緊急接種キャンペーンを実施。風疹とともに麻疹も排除するため麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を使い、全国民の42%を占める同年齢層への接種が行われた。このキャンペーンでは、全ての地域で80%以上、過半数に当たる60の地域で95%以上の接種率を達成。これ以降、コスタリカでは麻疹、風疹の国内報告がゼロとなった。

 臨時接種には保健当局だけでなく、社会保障、教育、労働関係の省庁や地方自治体も参加したほか、臨時接種の2週間前からはテレビやラジオなどで国民に接種への協力を求める放送も行われた。接種は医療機関、ショッピングモール、大学、職場で行われ、人口の少ない地域では医療チームが直接、住宅を回って接種したと報告されている。

チリ、ブラジルなど:16~39歳男性の90%以上に緊急接種

 チリ、ブラジル、アルゼンチンなどでも若者や大人へ段階的に一斉臨時接種を行い、風疹の国内流行を止めることに成功した。これらの国ではまず、小児期の予防接種を導入した後、1999年~2002年にかけて10~39歳(国によって一部対象年齢は異なる)の女性への一斉接種を実施。しかし、2007年の輸入症例が発生したのをきっかけに、風疹にかかったことや予防接種を受けたことがない同年齢層の男性で風疹が集団発生した。

 これを受け、南米各国では2007~08年にかけて男性への緊急接種キャンペーンを実施。この臨時接種による、当時の各国での男性の対象年齢・人数と予防接種率はそれぞれ、チリ=19~29歳の130万人、93%、ブラジル=20~39歳の6,590万人、96%、アルゼンチン=16~39歳の650万人、90%と記録されている。

 ブラジルとアルゼンチンで行われた大人への緊急接種キャンペーンでは、両国と国境を接する10カ国で未接種者を対象とした追加の臨時接種も実施された。チリとブラジルでは、2009年にそれぞれ13例、14例の先天性風疹症候群が報告されたが、キャンペーンが功を奏し、翌年の報告はゼロとなった。ちなみに2012年から13年6月現在、日本では11例の先天性風疹症候群が報告されている。

「スピードアップキャンペーン」は一度限り

 米州保健機関(PAHO)のCarlos Castillo-Solorzano氏らは、この報告の中で、小児期の予防接種導入後に起きる風疹の地域内流行を早急に止める手段として、「若者~大人の男女への一斉接種キャンペーンが有効」と述べている。同氏らが「スピードアップキャンペーン」と名付けるこの方法、ワクチンが導入された時期や小児期のワクチン接種を逃した人へのフォローアップ接種、風疹流行の状況などにより、抗体を持っている割合が低い年齢層を見極めた上で、「一度に限って」行うものと説明している。

 なお、同氏らはスピードアップキャンペーンを含む「補足的予防接種」を成功させるには、MRワクチンなどによって麻疹と風疹への対策を並行すること、接種率を監視して未接種例を把握、さらにその理由を探るシステムの導入も必要と述べている。

 一方、欧州地域では、当初2010年だった麻疹の排除目標を達成できなかったため、新たな目標を2015年に設定。スカンジナビア半島を中心に麻疹や風疹の地域流行を阻止できている国々がある一方、ポーランドなど周期的な流行を止められていない国があり、WHOの欧州事務局などが若い男性を対象とした麻疹・風疹に対する予防接種を行うよう提言している。WHOのお膝元でも、麻疹と同時に風疹と先天性風疹症候群の排除を達成するための加盟国による会議を開催、小児科医や公衆衛生の専門家など関係者の連携強化を図り、各国での取り組みを進めているところだ。

日本の対策は?

 欧州地域と同じく、麻疹の排除目標を新たに2015年に設定し直した日本では、今後どのような対策が取られるのか。すでに流行が本格化していた今年3月、厚生労働省の「麻しん対策推進会議」では、小児期のMRワクチン接種を呼び掛ける有名人を起用したキャンペーンの開始を発表。風疹については流行状況の報告のみで、十分な討議が行われることはなかった。一方、南北米大陸や欧州では麻疹だけでなく風疹と先天性風疹症候群の同時排除を進めている。

 日本でも調査から大人の男性で風疹の抗体を持っている割合が低いことが分かっており、小児期のMRワクチンの高い2回接種率を達成している。また、昨年までは5年間にわたり中高校生を対象とした追加接種が行われるなど、段階的な対策が行われてきた。これらはいずれも、Castillo-Solorzano氏が示す「スピードアップキャンペーン」の基礎条件を満たしている。国が今後、「スピードアップキャンペーン」に踏み切るのかどうかか、大いに注目される。

(編集部)

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