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【寄稿】今こそ日本の風疹排除への絶好のチャンス

 2013年06月27日 19:30

〈編集部から〉

 大人を中心に風疹が流行する中、田村憲久厚生労働相が「風疹はまだ1万例。他に予算を投入すべき感染症は多い」と発言し、大きな波紋を呼びました。各国から日本への渡航注意情報も発表されており、国際的にも国内の風疹排除は喫緊の課題となっています。政府はどう対処するべきなのか。理化学研究所新興・再興感染症研究ネットワーク推進センター(東京都)の加藤茂孝氏(元国立感染症研究所、元米疾病対策センター=CDC=研究員)に解説してもらいました。加藤氏は、現状について「麻疹・風疹排除の絶好のチャンス」としつつ、ワクチンが不足すればその機会を逃すと指摘。今こそ国が明確な目標に掲げ、積極的な対策を行うときと強調しています。

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ワクチン究極の目的は「ウイルスの根絶」

 すでに天然痘の例で明らかなように、感染症に対するワクチンの究極の目的は「対象となるウイルスを地球上からなくす(根絶)」である。今はポリオがまさに根絶の一歩手前まで来ており、日本は世界に先駆けて国内でのポリオ根絶に成功した輝かしい歴史を持っている。そのポリオに次いで世界保健機関(WHO)が根絶の目標としているのが麻疹、そして風疹と先天性風疹症候群である。

 日本では1961年、国内で大流行したポリオを制圧するため、当時の厚生大臣(古井喜実氏)の責任で日本にはなかったポリオ生ワクチンをソ連とカナダから緊急輸入し、1,300万人の小児に一斉接種した。この取り組みが成功し、数年で患者は激減、ポリオ根絶の先駆的な役割を果たした。

 政府の決断が「ワクチンで防げる疾患(VPD)」の制圧を早めることを、見事に証明した。同様の事例は海外にもあり、南北米大陸での麻疹・風疹排除が挙げられる。同大陸(コスタリカ、チリなど)の例は、政府が積極的に一斉接種などの全国的な対策を取ればVPDが数年のうちに制圧できることを示す典型例である(関連記事)。

今回の流行は「専門家の提言が生かされない制度」の表れ

 現在の日本の予防接種制度は、VPDの流行を抑制できていない。定期接種として制度で定められた年齢でしか原則無料でワクチンを受けられない上、任意接種では万が一の重篤な健康被害への補償も薄い。

 さらに、接種を逃した人の追跡、接種勧奨ができないなどの問題がある。2004年の風疹流行で厚労省の研究班は「定期接種の対象外の成人も含めて風疹の予防接種率を向上させなければ、この流行は繰り返し、先天性風疹症候群の発生も防げない」との提言を行った。

 今回の流行は、風疹に対する対策が不足していたことの裏返しで非常に残念なだけでなく、専門家の提言が予防接種政策に十分には生かされてこなかったという、これまでも存在していた問題をあらためて浮き彫りにした。

排除目指し国がワクチンの輸入を

 今回の風疹流行を止める唯一の手段は、風疹抗体保有率の低い20~40歳代の成人男性への一斉予防接種だ。とはいえ、今のままで行けば国産のMRワクチン(麻疹風疹ワクチン)が一時的に不足すると、厚労省がすでに発表している。

 国内のワクチン製造企業への増産指示とともに、今取るべき対策は海外からのワクチンを緊急輸入することだ。海外の多くの国ではMRワクチンではなく、ムンプス(流行性耳下腺炎=おたふくかぜ)を含むMMRワクチンが使用されており、日本でも海外への渡航者に対し、医療機関でも輸入MMRワクチンの接種実績が蓄積されつつある。

 国産のMRワクチンは、効果と安全性の面で非常に優れているが、海外で使用されているMMRワクチンも効果、安全性において遜色がない。医師個人でのMMRワクチン輸入を行う動きも出ているものの、在庫管理、万が一の健康被害に対する補償制度が十分でないことや不活化ポリオワクチンの個人輸入で起きた輸入会社の経営破綻といった懸念もある。

 政府が定期接種と同様の制度を担保し、国民の麻疹および風疹の罹患歴と接種率のデータ整備を行い、ワクチンが全国に十分行き渡るよう、緊急輸入も含めてワクチンの十分量を確保した上で一斉接種する。これこそまさに、現在の風疹流行に対し国が取るべき最上の対応であり、麻疹、風疹、先天性風疹症候群の制圧に必要不可欠な条件でもある。「今回のピンチは、裏返せば麻疹、風疹、先天性風疹症候群を国内から排除する絶好のチャンス」であることを強調しておきたい。


加藤 茂孝(かとう しげたか)

 1964年、東京大学理学部卒。69年に同大学大学院理学系研究科博士課程を中退し、国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)に入所、02年からは米疾病対策センター(CDC)で客員研究員を務める。06年から現職の理化学研究所新興・再興感染症研究ネットワーク推進センター研究員。理学博士。

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