普段、脳の半分も使っていない?
2013年07月16日 06:00
人は普段、脳の半分も使っていない、とよく聞きます。残りをうまく使うことでさらなる能力を発揮でき、天才といわれている一部のアスリートはこれを実施しているから。火事場のバカ力もこれ。本当ですか? 世界のイノシス(男性20代)
残念ながら脳は100%使われ、働いています。
「アスリートや『火事場のバカ力』などですごい力を発するのは、使われていない脳を活用したから」というのはウソです。
「人は、脳の半分も使っていない」などの話を聞くと「使っていない部分の脳まで使ったら、すごいことができるかも」とか「隠れた力があるんだ!」と秘められた力に期待してしまいます。でも、残念ながらすでに脳は100%使われており、この手のお話は医学的にはウソです。
脳はどの部分もそれぞれ役割を持って働いています。そのため、怪我や脳梗塞、脳卒中などで脳が損傷されると、その部分に対応した機能の障害が出てきます。場所によって脳は使い分けられているので、常に脳の全てが同時に働いているわけではありませんが、脳は100%使われています。
「普段使われていない脳を使ったから『火事場のバカ力』が出た」わけではないことは、「使われていない脳はない」との前述の説明でお分かりいただけたでしょうか。
一方で、私たちは通常、筋肉が持つ本来の力の20~30%程度しか使っていないといわれています。筋肉が100%の力を出すと筋肉や関節、骨など自らの体を傷つけてしまうので、普段は、自分の体を守るため脳が筋力に制限をかけています。
しかし、生命に危険が迫ったときには、多少傷ついても生き残るために全力を尽くす必要があります。危機的な状況では、交感神経が活性化してアドレナリンが分泌され、アドレナリンによって脳が筋力の制限を解除します。それで、信じられないような「火事場のバカ力」が出るのだと考えられています。
基本的には、脳の制限は自分の意思で解除できるものではありません。ただし、アスリートはものすごい努力や練習によって体を鍛えています。さらに大声を出したり、雄叫びを上げたりすることでアドレナリンを分泌し、脳の制限を緩め、筋肉を最大限使うすべも習得しているといわれています。すごい記録を出すアスリートたちが競技で大声を上げるのも合点がいきますね。
中野 里美(なかの さとみ)
1990年、東京女子医科大学卒業後、慶應義塾大学医学部内科学教室に入局。都立広尾病院、国立病院機構栃木病院などを経て、2007年から三菱UFJニコス株式会社診療所勤務。同社において初代統括産業医として、社員の健康管理を行っている。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント。