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新型コロナウイルス、パンデミックの可能性は低い

 2013年09月06日 19:00

 中東地域を中心に感染が広がっている"新型コロナウイルス"こと「MERS(マーズ)コロナウイルス」(病名は中東呼吸器症候群=MERS)は、高い致死率が報告されていたが、感染力はそこまで高くないようだ。感染症研究の世界的権威であるフランス・パスツール研究所のArnaud Fontanet教授らは、2013年6月までに報告されたの感染者55人のデータを基にMERSコロナウイルスの人から人への感染力を推算したところ、パンデミック(世界的な流行)を引き起こすほどの感染力はまだ獲得していないことが示唆されたと、8月24日発行の英医学誌「Lancet」(2013; 382: 694-699)に発表した。

1人の感染者が周囲に感染させる数を比較

 MERSコロナウイルスは、2012年9月に初めて感染例が報告されて以降、中東諸国を中心に感染が広がっており、9月2日現在で108人が発症し、50人が死亡している。

 このウイルスは、2002年に中国広東省から世界に感染が拡大したSARS(サーズ)コロナウイルス(病名は重症急性呼吸器症候群=SIRS)と共通点が多く、さらに世界保健機構(WHO)の報告では致死率が60%とされていることから、感染が拡大すればSARSコロナウイルスよりも多くの死者が出ることが懸念されていた(関連記事)。

 Fontanet教授らは今回の研究で、検体検査によりMERSコロナウイルスへの感染が確認され、2013年6月21日までに報告された64人のうち、6月8~21日に報告された9人を除く55人のデータを使い、感染力の強さを評価するために基本再生産数(R0=1人の感染者が周囲に感染させる数)を算出。パンデミック前のSARSコロナウイルスの数値と比較した。

 なお、R0が1を超えると地域内で流行を引き起こすといわれ、季節性インフルエンザは3~4、現在日本で流行している風疹は6~7、麻疹は12~18などとされている(「Epidemiologic Reviews」1993; 15: 265-302)。

最悪の想定でもSARSより感染力弱い

 その結果、最悪の想定でもMERSコロナウイルスのR0は0.69で、パンデミック前のSARSコロナウイルス(0.80)よりも低かった。ちなみに、パンデミック後のSARSコロナウイルスのR0は2~3とされている。

 Fontanet教授は「MERSコロナウイルスはSARSコロナウイルスと多くの共通点を持っているとはいえ、感染するまでの仕組みなど異なる部分は多い」と説明。さらに「SARSコロナウイルスは人から人へ感染しやすくなるのに数カ月しかかからなかったが、MERSコロナウイルスは人間から検出されるようになってからすでに1年以上経過しているにもかかわらず、パンデミックを引き起こすようには変異していない」としている。

 ただし、症状が出ていない感染者(不顕性感染者)までは調べられていないため、それを含めるとR0が高まる可能性は残っている。Fontanet教授は「SARSコロナウイルスのパンデミックで得られた重要な教訓の一つは、流行が中国南東部でとどまっていた時点で制圧できていれば、世界的な拡散を防げたかもしれないことだ」とし、感染経路の調査や監視などの対策をさらに強化するよう訴えた。

(編集部)

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