「がん相談支援センター」患者の認知率35%、利用率10%
2013年09月13日 10:30
がん患者の抱える問題は体のことだけでなく、心や経済的なものまで幅広い。そのため、患者に対して情報提供や支援などを行うがん相談支援センターの整備が進められている。国立がん研究センター東病院(千葉県)臨床開発センターの小川朝生科長(精神腫瘍科)らは、相談支援の需要を把握するため、同院を含むがん専門4施設に通院中の患者を対象に調査を行い、日本臨床腫瘍学会の第11回学術集会(8月29~31日、仙台市)で中間解析結果を報告。患者の認知率は約35%、利用率は約10%にとどまり、今後の相談支援センターの在り方に課題を示す結果となった。
4施設の患者6,508人から回答
がん相談支援センターは今回の調査対象となった4施設でもそれぞれ名称が異なり、国立がん研究センター東病院では「患者・家族総合支援センター」、がん研有明病院(東京都)では「患者支援センター」、神奈川県立がんセンターでは「医療支援相談室」、四国がんセンター(愛媛県)では「患者・家族総合支援センター 暖だん」などとなっている。とはいえ、がん患者・家族の相談や支援を目的としている点は変わらない。
今回の調査は4施設に通院している患者を対象に行われ、計6,508人から回答を得た。調査施設について、小川科長は「本来であれば一般総合病院を含めての調査が必要だが、まずは4つのがん専門施設で実施することとした」と述べている。
「全く相談したくない」という患者も
集計の結果、相談支援センターの認知率は約35%で、「病院の各サービス利用状況」は、相談支援センターが一般的に用意する主なサービス「相談員」「患者教室」「サロン」「講演会」「パンフレット」のうち、パンフレットは過半数の患者が利用しているが、相談員による支援や患者教室の利用率は10%未満にとどまった。
実際の利用状況は、「身体症状」と「治療に関する情報」は相談しやすいようで60%を超えていたが、「社会経済的問題」「精神心理症状」についての利用率は10~20%と低かった。さらに、今後相談を希望するかについて「全く相談したくない」とする患者もおり、特に「社会経済的問題」と「精神心理症状」では10%前後に達していた。
「病院で相談したくない理由」については解析中だが、現時点で、経済的な問題について「時間がかかって不便」「どこに相談すればよいのか分からない」といった要因が、心の症状については「問題はひとりでに解決する」「ほかの人がどう思うか心配」といった要因が大きいことが示唆されているという。
以上から、小川科長は「今後、相談支援センターの在り方や、相談内容の工夫、アウトリーチの問題というところでぜひ検討したい」と述べた。
会場から鋭い指摘
講演後の質疑応答では、会場にいた医師から以下のような鋭い指摘があった。
会場「患者相談室の相談員の仕事は多く、特に、がん専門でなく、さまざまな病気の患者さんたちの相談にも対応しなければいけない一般病院では、非常に大変な仕事となっている。"社会経済的問題についても相談してほしい"とアピールしたいのはやまやまだと思うが、就労一つにしてもさまざまな制度や法律、労働問題の知識が必要。つまり、相談員はさらに多くの勉強をしなければならなくなる。それをサポートする十分な教育の仕組みを作らなければ、社会経済的問題の相談には対応できないだろう」
小川科長「"ワンストップで相談できる場所を"という患者のニーズがあったが、ご指摘のようにがん患者の相談内容は広範であるため、就労相談も含めると通常の相談員の相談レベルを超えてしまうという問題は非常に大きい。今は、そこまでやっと分かってきた、というところ。今後おそらく、相談支援センターの機能を切り分けてそれぞれの専門に特化した支援が必要になると思う」
会場「一般病院より高いと思うが、"相談支援センターの認知率35%"は、やはり十分ではないように感じる。相談室の周知・広報は、どのようにアプローチすべきか」
小川科長「研究チームでも、"がん専門施設でありながら、なぜこんなに低いのか"と議論になっている。おそらく、一因として"どのように使えるの分からない"ということも大きいだろう。アプローチとしては、複数方向、複数回の紹介が必要かと思う。非常に簡単でもいいので、こういうサービスがあるということを繰り返し伝えていくことが重要だろう」
(編集部)