インフルによる急性脳症で9歳児が死亡―長野県
2014年02月14日 10:30
長野県立こども病院小児集中治療科の笠井正志医監らは,今年1月中旬に持病のない9歳男児がインフルエンザ脳症(インフルエンザウイルス感染による発熱で脳や神経などに障害を負う病気)を発症し,死亡した症例に関する報告を、2月10日発行の国立感染症研究所の報告書「病原微生物検出情報 速報」(電子版)に発表した。遺伝子検査の結果,男児の喉や鼻の粘膜からA型インフルエンザウイルスのH1N1pdm09型が検出されたという。この亜型は2009年の大流行時に"新型インフルエンザ"と呼ばれたもので、当時は急性脳症が増加していた。今年に入ってH1N1pdm09型が増えていることから、同様の懸念があるとして注意を呼びかけている。
発症から2日目に死亡
この男児はもともと健康だったが,1月9日からせきや鼻水,高熱の症状が出現。翌10日に総合病院小児科を受診し、せき止め薬と鎮痛解熱薬(アセトアミノフェン)が処方された。今シーズンのインフルエンザワクチンは受けていなかった。
帰宅後の同日午後に男児の容態が急変したため,同じ病院へ救急搬送。検査でインフルエンザA型陽性となったことから,集中治療のため県立こども病院にドクターヘリで搬送された。
県立こども病院では、抗インフルエンザ薬を注射したほか,痙攣(けいれん)やショック状態などに対する治療が行われたが,同日,発症から2日目で死亡した。
剖検では、強い脳浮腫や至る所に脳壊死が認められ,遺伝子検査で喉や鼻の粘膜からH1N1pdm09型を検出。オセルタミビル(商品名タミフル)やペラミビル(同ラピアクタ)の効果を下げるといわれているウイルスの変異(H275Y変異)は見られなかった。
笠井医監らは「救急要請から2時間半後の集中治療室入室時にはすでにショック,DIC(播種性血管内凝固症候群=全身の血管で血液が固まる病気)状態と病勢が強く、救命し得なかった」と考察。また,男児は今期のインフルエンザワクチンを受けていなかったが,現行のワクチンには急性脳症の予防効果に関するエビデンス(根拠となる研究結果)がないため,より有効なワクチンの開発が望まれると結んでいる。
学会も注意呼びかけ
インフルエンザの本格的な流行とともにH1N1pdm09型が増えていることから,日本小児科学会は、子供に感染が広がることや重症肺炎などの増加が懸念されると指摘。2009年のパンデミック(世界的流行)では,インフルエンザによる重症ウイルス性肺炎や急性脳症は,それまでの季節型に比べ年長児に多く見られていたことなどが指摘されている。
また最近,タミフルやラピアクタに耐性を示すウイルスの変異(H275Y変異)が札幌などで相次いで検出されていることから,この点も合併症の重症化につながる危険があると述べている。
(編集部)