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広島土砂災害の避難所に段ボールベッドを―学会呼びかけ

 2014年08月25日 21:20

 日本血栓止血学会の榛沢和彦氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科講師)は8月25日、都内で開かれた同学会の記者会見で、広島市北部で発生した土砂災害の避難者の健康を守るため、避難所に段ボール製の簡易ベッドを導入するよう呼びかけた。避難所での雑魚寝生活は、静脈血栓塞栓(そくせん)症(いわゆるエコノミークラス症候群)を招きやすいためだ。新潟大学災害・復興科学研究所の講師でもある榛沢氏は「避難所生活での脚の血栓は1週間以降で最も増加する。広島土砂災害の避難者はこれからの対策が重要になる」とし、避難者自身には積極的に運動や水分補給を行うよう求めた。

"周りへの気遣い"で発症に拍車

 広島市北部で8月20日に起きた土砂災害は、発生から6日目の8月25日現在で死者54人、行方不明者28人を出す大規模な災害となった。政府は、東日本大震災などと同じ「激甚災害」に指定する方針を明らかにしている。難を逃れた人々は避難所での生活を余儀なくされているが、そこで健康上の問題として多く発生するのが静脈血栓塞栓症だ。阪神・淡路大震災の頃から指摘され始め、東日本大震災のときも多くの患者を出し、現在も多くの人々を苦しめている。

 静脈血栓塞栓症は、脚の静脈にできた血の塊(血栓)が剥がれて血流に乗り、肺動脈を詰らせる病気。肺動脈が詰ると酸素が補給できず、最悪の場合は死に至る。

 では、なぜ避難所生活が静脈血栓塞栓症を発症させるのか―。

 この病気はエコノミークラス症候群とも呼ばれるように、長時間、同じ姿勢で動かないことが原因の一つと考えられている。避難所での生活は、体育館などの床に直接または薄いマットや畳などの上に布団を敷き、その周辺に荷物を置いている。

 他人と壁を隔てず同居するストレスに加え、通路まで距離のある内側にいる人は周囲の人に気を遣って極力移動しない、トイレに行く回数が増えるから水分の補給も十分にしないなど、静脈血栓塞栓症を発症する条件が整ってしまうのだ。

欧米で問題にならない秘密は「ベッド」

 静脈血栓塞栓症の発症率は、欧米は日本の3~10倍といわれているが、欧米の避難所生活でこの病気が問題になることないという。その理由として榛沢氏は、雑魚寝状態の日本と違い、欧米では簡易ベッドが用意されていることを挙げた。

 実際、欧州でも1940年代のロンドンで、地下鉄ホームでベッドなしの避難生活を余儀なくされた人々の間で静脈血栓塞栓症(肺血栓塞栓症)による死亡が増えたことが問題となった。地下避難所に仮設ベッドを導入後、発症者が減ったと報告されている。

 2004年に起きた新潟中越地震から避難所での診療に当たってきた榛沢氏は、雑魚寝状態の広島土砂災害の避難所について「おそらく阪神・淡路大震災も同じだと思うが、新潟中越地震、2007年の能登半島地震、2011年の東日本大震災、そして今回と、幾度の経験を経ているにもかかわらず避難所の環境は何も改善されていない」とし、広島土砂災害の避難所に段ボール製の簡易ベッドを導入することを提案。これまでの国内での導入事例から、以下の利点を紹介した。

  • 通路が確保されるのでトイレや運動のため外に出やすい
  • 段差ができるので立ち上がりやすい
  • 食事のときにはテーブル代わりになる(姿勢良く食べられる)
  • 中に荷物が入れられるため空きスペースが広くなる
  • 広く使えるので寝返りも打ちやすい
  • 足音などが響かないのでよく眠れるようになる

...など

1に運動、2に水分補給

 一方、静脈血栓塞栓症を予防するには、避難所の環境だけでなく避難者自身が積極的に取り組まなければならないという。妊婦や中高年女性、手術を受けた人、寝たきりの人、脚のケガ(打撲を含む)がある人などは危険度が高いので、特に注意が必要だ。榛沢氏は、避難者ができる以下の対策を紹介した。

  • 昼間は起きて歩く
  • こまめな水分摂取(喉が渇いたらではなく定期的に飲む)
  • トイレを我慢しない
  • 可能なら弾性ストッキングやスポーツ用のふくらはぎサポーターを着用する
  • 脚にむくみが出たり痛みがあったりしたら、すぐ医療班に連絡する

 脚にできた血栓はなかなか治らず、これまでの避難者の調査では災害から数年、十数年を経ても血栓が残り、"元避難者"たちの肺塞栓や脳卒中、心筋梗塞になる危険性を高めているという。榛沢氏は「雑魚寝の避難所では3日以上で脚、特にふくらはぎの静脈に血栓ができやすくなる。これは車中泊でも同じ。最も血栓が多い時期は発災後7~14日。明日(8月26日)で発災から7日目を迎える広島土砂災害の避難者では、これからが静脈血栓塞栓症の重要な時期となる」とし、行政も避難者も予防に取り組むよう求めた。

 なお、榛沢氏らは8月26日から現地入りし、許可が取れた各避難所に段ボール簡易ベッドを設置していく予定だ。

(小島 領平)

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