偽薬に「高価な新薬」の説明で"効果"高まる―米研究
2015年02月10日 10:30
薬の効果を確かめる臨床試験でよく使われる偽薬(プラセボ)。薬と同じ外見をしているものの、中身はブドウ糖や食塩水など薬効のない成分で占められている。そんな偽薬に「高価な新薬ですよ」との説明を加えることで"効果"が高まることが、米シンシナティ大学のアルベルト・J・エスパイ氏らによって1月28日発行の米医学誌「Neurology(神経学)」(電子版)に報告された。「安い薬」と説明された偽薬を注射されたパーキンソン病患者と比べ、症状の改善度が高かったという。
"18万円の薬"と"1万2,000円の薬"を比較
人は思い込むと、それに合わせて体の状態が変わることがある。例えば、薬の成分が含まれていない偽薬でも、薬と思い込むことである程度の効果が出てしまうのだ。薬の臨床試験で偽薬が使われるのは、こうした「偽薬効果(プラセボ効果)」を除外し、薬の成分による効き目だけを確かめようとするためだ。
今回の研究結果で、そのプラセボ効果が説明の仕方によってさらに変わることが示唆されたことになる。
エスパイ氏らは、症状が中等度のパーキンソン病患者12人(平均年齢62.4歳、男性75%)に、薬の臨床試験を受けてもらった。その際に「2つの薬による治療を受けてもらう。共にドパミンアゴニストという種類の薬で効果は同じ程度と考えられているが、製造コストによって1回の分量の薬価が一方が1,500ドル(約18万円)、もう一方が100ドル(約1万2,000円)と違う。この2剤の有効性が同程度であることを証明するために試験を行う」と説明した。
なお、日本神経学会の治療ガイドライン(指針)によると、パーキンソン病の治療は、70歳未満で認知機能の障害や精神症状がなく、症状の改善を優先する必要がない場合、ドパミン作動薬という薬から始め、症状の改善が十分でない場合、レボドパという薬を追加する。
先に"高い薬"注射で効果向上
参加者は、通常の治療薬を服用してから12時間以上たった後に受診してレボドパを服用、エスパイ氏らは服用前後の運動機能や脳の活動状況を調べた。
さらに、その1週間以内に再度受診し、通常の治療薬の服用後12時間以上たった状態で「安価なドパミン作動薬」と説明した偽薬と、「高価なドパミン作動薬」と説明した偽薬を注射(いずれも生理食塩水)。"高い薬"を注射して"安い薬"を注射するグループと、その逆のグループに分けられた。
その結果、1回目の受診では予想通り、レボドパによって運動機能障害が改善していた。2回目の受診では、"安い薬"を先に注射したグループでは注射前と運動機能障害の程度が変わらなかったが、"高い薬"を先に注射したグループでは運動障害が28%改善。"高い薬"の改善度はレボドパと統計学的には変わらず、"安い薬"との差は大きかった
期待低い人では変化も少ない
試験が終わると、エスパイ氏らは参加者に対して「ドパミン作動薬」はいずれも偽薬だったと説明。8人は"高い薬"に大きな期待を抱いていたことを認め,期待感がもたらす影響の大きさに驚いていた。一方,残りの4人は高価だからといって期待を抱くことはなかったと振り返り、実際に注射前後の変化も少なかったという。
以上の結果を踏まえ,エスパイ氏らは「もし、治療による有効性を高める上でプラセボ効果を生かす戦略が分かれば,治療薬の用量を減らすと同時に最大の治療効果が得られる可能性がある」と指摘している。
なお, PDでは脳内のドパミンの放出量が低下する一方,プラセボ効果はドパミン放出量を増加させることが分かっている。そのため,同氏らは「他の疾患に比べてPD患者ではプラセボ効果が表れやすい可能性がある」と説明している。
(編集部)