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【寄稿】「糖尿病患者の禁煙に注意」の研究結果が意味するもの

 2015年05月19日 06:00

〈編集部から〉
 糖尿病(2型)が禁煙すると、3年以内は血糖の状態が悪化するとの研究結果が、英国の1万人を対象に行った調査から報告されました(関連記事:糖尿病患者が禁煙するなら注意! 3年間は血糖値悪化の恐れ)。この研究では、11年前に日本の糖尿病患者を対象にした研究結果(「Diabetes, Obesity and Metabolism」2004; 6: 181-186)も参考にされました。その研究結果を報告した飯野内科(福岡県筑紫野市)の飯野研三院長(当時は福岡赤十字病院に所属)が、今回の研究について解説。糖尿病の人が禁煙する際の注意点などもアドバイスしてもらった。

私の研究結果との違い

 私の研究では、2型糖尿病患者25人のうち、1年間の禁煙に成功した15人(禁煙群)と、対照の喫煙を続けた16人(喫煙群)のヘモグロビン(Hb)A1c、体重、血圧などを比べた。その結果、1年後に喫煙群では変化が認められなかったのに対し、禁煙群ではHbA1cが7.2%から8.2%に悪化し、拡張期(最小)血圧も69mmHgから76mmHgに上昇した。

 一方、6カ月後の体重増加度は喫煙群の0.2キロに対して禁煙群では1.2キロと高かったが、12カ月後には差がなくなった。また、禁煙群のHbA1cの上昇には体重増加は関連していなかったが、禁煙前のBMI(肥満指数)や中性脂肪とは関係(正相関)が認められた。

 今回のライセット氏らの研究は、禁煙者のHbA1cの上昇は体重増加とは関連していないという結果は私の研究と同様だが、禁煙前のBMIや中性脂肪と関連があったのか否かについては論文に記載がなく不明で、検討されるべきだったと考える。

日本人では特に注意?

 今回、ライセット氏らは「観察研究(患者の状況を観察するだけの研究)のため仕組みは不明」としながらも、体重の変化とは関係なく禁煙後に食べ物の嗜好(しこう)が変わったこと(甘いものの摂取が増えるなど)が影響した可能性もあるとの見解を示している。この点については私も同感だ。

 また、私の研究では前述のようにHbA1cの上昇は体重増加には関連なく、禁煙前のBMIや中性脂肪とは関係が認められた。これは、メタボリックシンドロームを合併する糖尿病患者では禁煙後に血糖状態が悪化しやすいということだろう。つまり、すでにインスリン抵抗性が強い患者で禁煙後に血糖状態が悪化しやすいということだ。

 また、特に日本人の糖尿病患者ではインスリン分泌能が十分でないため、肥満になる前に血糖状態が悪化すると考えられており、このことから体重増加と血糖状態の悪化は関連しないと考えられる。

禁煙は血糖と血圧が安定してから

 研究を発表してから11年がたつが、私は現在、糖尿病や動脈硬化、甲状腺を専門とした診療所で日々、多くの糖尿病患者を診療している。また、外来で糖尿病教育を実施しており、糖尿病患者の禁煙指導にも取り組んでいる。こうした中で、実際に禁煙後に血糖状態が悪化する患者を多く経験している。

 これを踏まえ、糖尿病患者に対しては食事や運動による治療を強化するとともに、血糖および血圧をより良い状態で安定させることを優先し、血糖と血圧が安定してから禁煙を始めるようにしている。また、肥満の患者に対しては減量後に禁煙を開始すること、減量作用のあるGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬、インスリン抵抗性改善作用のあるメトホルミン、禁煙補助薬などを適切に使用することを心がけている。

※文中のHbA1c値は論文の値をNGSP値に換算

飯野 研三(いいの けんぞう) 
 1989年に九州大学医学部を卒業し、同学部付属病院で研修を開始。同病院や福岡赤十字病院、九州医療センターなどを経て、2004年から福岡東医療センター内科医長、2006年から福岡大学筑紫病院内科第2講師などを歴任。2009年に福岡県筑紫野市で飯野内科を開業し、現在に至る。日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医・指導医。糖尿病やメタボリックシンドロームの対策だけでなく、禁煙外来や甲状腺の病気の治療も行っている。

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