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「血圧は120未満に」は深刻な副作用も―専門家団体が見解

 2015年11月26日 06:00

 収縮期(最高)血圧120未満を目指した人では、140未満を目指した人よりも心臓病や死亡が少なかった―。米国の一流医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」の11月9日号(電子版)に発表されたこの論文は、医学界はもちろん、一般の人の間でも話題となり、「週刊文春」11月19日号※こちらのリンクはただいま無効中です。などでも取り上げられた。この「血圧は120未満に」の解釈について、専門家団体であるNPO法人「臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)」が公式サイト※こちらのリンクはただいま無効中です。に見解を発表。「研究の信頼性は高く、結果が示す意義は非常に大きい」としつつ、深刻な副作用を招く恐れがあることなどから、適切に解釈することが必要とした。

そもそも高血圧の基準は?

 日本高血圧学会では、高血圧を「収縮期(最高)が140以上または拡張期(最低)が90以上」と定めており、これを超える人は食事や薬で基本的に収縮期血圧を140未満に下げることが治療の目標とされてきた。

 その一方で同学会は、「正常血圧」以上に健康的とされる「至適血圧」を収縮期120未満かつ拡張期80未満と定めている。治療目標をここまで下げた方がよいかどうかは、日本だけでなく世界中の専門家の間で議論となっていた。

 今回、結果が発表された「SPRINT(スプリント)」という研究では、高血圧患者9,361人の治療目標を120未満と140未満に分けて比べたところ、120未満を目指した場合で心臓病や脳卒中などの危険性が25%減り、死亡の危険性が27%減ることが示された。つまり、治療目標を下げて「至適血圧」を目指した方が、より健康に過ごせることが示されたのだ。

 11月7~11日に米フロリダ州オーランドで開かれた米国心臓協会の会合では、この結果が発表されると研究者へ多くの賛辞が寄せられたという。それほど、医学会にとって待ち望まれたエビデンス(根拠となる研究結果)だったことになる。

50歳以上の心臓病リスク高い人向け

 ただ、注意しなければならないのは、この研究の対象者が50歳以上の高血圧患者という点。さらに、心筋梗塞や動脈硬化などの心血管病になる危険性が高い人、具体的には、(1)脳卒中以外の心血管病にかかったことがある、(2)慢性腎臓病にかかったことがある、(3)医学的評価で10年以内に心血管病を発症する危険性が15%以上、(4)75歳以上―の1つ以上に該当する人に限定している。つまり、心臓病になりやすい人に限った結果というわけだ。

 J-CLEARも、今回の結果について「公的機関が実施したという点で、信頼性は高いと思われる」とした上で、対象が心筋梗塞や脳卒中になる危険性が比較的高い症例のため、「高血圧患者全てに当てはまる結果ではない」と指摘。高齢者は合併症を抱えていることが多いことから、「一律に厳格に血圧を下げることはしばしば有害な副作用をもたらし、ときに危険な場合がある」と警告し、患者一人一人の体の状況に合わせた対応が必要とした。

 このほか、血圧の測定法が一般診療でのものと異なること、降圧利尿薬は急性腎障害や電解質異常を起こしやすいため、特に高齢患者では注意が必要なことなど、注意を挙げた。

 その一方でJ-CLEARは、研究を行った米国立心肺血液研究所(NHLBI)の「熱意と努力に対して祝意と敬意を表す」とし、結果についても「意義は非常に大きい」と評価。「日本の高血圧ガイドラインでもあらためて検討されることが望まれる」としている。

(小島領平)

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