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「膣液を新生児に塗りたくる」に医師が待った!

 2016年03月07日 10:30

 英国やオーストラリアなどでは最近、帝王切開で生まれきたばかりのわが子の顔や体に、ガーゼに染みこませた自分の膣(ちつ)の分泌液を塗ることを希望する母親が増えているのだとか。「vaginal seeding(膣液の植え付け)」と呼ばれるこの行為は、通常分娩(ぶんべん)に近づけて免疫力が高めることが目的とされる。しかし、専門家は「安全性や有効性は科学的には証明されていないため、行うべきでない」と呼びかけている。2月23日発行の英医学誌「BMJ」(電子版)に掲載された論評によると、この行為によって母親の産道に付いていた悪い菌やウイルスが出生児に重い感染症をもたらす可能性があるという。

腸内細菌への関心の高まりが流行の背景に

 この論評は、英インペリアルカレッジ・ロンドンの小児科医であるオーブリー・カニングトン氏や、オーストラリア・セントビンセント病院の感染症専門医であるジョナサン・ダービー氏ら6人の医師が共同で書いたもの。カニングトン氏らによると、通常分娩で生まれた子供では産道でさまざまな細菌にさらされて免疫力が高まるとの考えが注目されていることから、帝王切開による分娩でもこれに近づけようとする「vaginal seeding」が考案されたという。

 やり方にはいくつかあるようだが、基本的に帝王切開が始まる前に膣内に折りたたんだガーゼを挿入し、1時間ほど留置して膣液を吸収させた上で取り出し、生まれてきた新生児の顔を含む全身に塗りつけるというもの。英国やオーストラリアではメディア(ガーディアン紙記事、デーリーメール記事)で紹介されたことなどを機に、帝王切開を予定する妊婦の間で希望者が増えているようだ。

 以前から、細菌と人の健康との関係は、医学界や一般社会で大きな関心を呼んでいる。その背景には、人の腸の中の菌の種類や構成(腸内細菌叢=そう=)の違いが、さまざまな病気のなりやすさに関係するとの報告が相次いでいることがある。さらに、「帝王切開で生まれた子供は通常分娩で生まれた子供に比べて肥満や喘息(ぜんそく)、アレルギーなどを抱える割合が高い」との報告や、「腸内細菌の構成が、帝王切開で生まれた子供では母親の皮膚細菌の構成に似ているのに対し、通常分娩で生まれた子供では母親の腸内細菌叢に似ている」との報告があったことから、「vaginal seeding」を行えば、通常分娩で生まれた子供と同じように腸内細菌叢が整えられるかもしれない、と考えられるようになったという。

 ただ、「vaginal seeding」の安全性や効果が科学的に証明されているかというと、現時点ではそうではないとのこと。カニングトン氏らは「効果がなくても安全であれば、医師が目くじらを立てるようなことではないかもしれない。しかし、B群連鎖球菌や単純ヘルペスウイルス、クラミジア、淋(りん)菌など、症状を自覚していない母親の産道に付いた病原体が、出生児に重い感染症をもたらす可能性がある」と指摘。特にB群連鎖球菌は、出生児に感染すると命に関わることもある重大な病気をもたらす可能性があると警鐘を鳴らしている。

 さらに、同氏らは「赤ちゃんの腸内細菌叢には、膣液を塗ることよりも母乳を与えることの方が強く影響する。『vaginal seeding』よりも、母乳育児を推進することの方が重要なのではないか」との見方を示している。

 なお、カニングトン氏らの病院は、効果よりも危険性の高さの方が上回るとの判断から「vaginal seeding」の希望には応じない方針を示している。

(あなたの健康百科編集部)

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