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あのJリーガーもかかった肺塞栓後症候群とは?

 2016年05月13日 06:00

 熊本地震の被災者で死亡例が出るなどの問題から、広く知られるようになった急性の肺塞栓症、いわゆるエコノミークラス症候群。この病気が恐ろしいのは、何も診断直後だけではない。実は治療を受けても原因となる血の塊(血栓)が残り、時間がたってから重症化することもあるという。そこで、最近、専門家の間でこのような状態を「肺塞栓症候群」と見なし、適切に対処しようとする動きがある。4月21日に開かれた日本循環器学会主催のプレスセミナーでは、同症候群にかかりながらもJリーガーとなり、ヴァンフォーレ甲府で活躍している畑尾大翔選手が登壇。自らの経験を振り返り、異変を感じたら受診することの大切さを訴えた。また、同セミナーでは岡山医療センター臨床研究部の松原広己部長が、まだ十分知られていない肺塞栓後症候群について説明した。

最初はコンディション不良かと...

 現在、ディフェンスとしてチームを支えるヴァンフォーレ甲府の畑尾選手は肺塞栓後症候群患者の1人だ。父と兄の影響を受けてサッカーを始め、学生時代はFC東京の下部組織、早稲田大学のア式蹴球部(サッカー部)でプレーするなど、サッカーエリートとして順調な階段を上ってきた。

 同選手が最初に異変を感じたのは、早稲田大学でプレーしていた2012年2月。左胸に痛みを感じた時だったという。当時について同選手は「スポーツをやっていたので、全く病気を疑わなかった。何でこんなにコンディションが悪いのだろうと思っていた」と振り返った。その後、咳や息切れがひどくなったことから、同年5月に受診。その病院では、詳しいことがわからず、肺に溜まっていた水を抜き、そのままプレーを続けていた。同年12月にようやく肺塞栓症と判明し、ドクターストップがかけられた。2013年1月にチームは全日本大学サッカー選手権大会で優勝したものの、出場することはなかった。

 喘息と誤診されることも多い

 松原氏によると、肺塞栓症のほとんどは脚の深部静脈に血栓と呼ばれる血の塊ができ、それが肺に流れることで発症する。こうした血栓ができてしまう原因には、脱水や先天的な原因(生まれつき血液が固まりやすい体質)、長期間にわたる寝たきりの生活、肥満や妊娠などが考えられるという。特に、寝たきりの高齢者や同じ姿勢で長時間座る人がかかりやすい。

 肺塞栓症の主な症状は、呼吸困難や胸の痛み、咳、脚のむくみなどだが、肺塞栓症にしか見られない特徴はないため、喘息などと誤診されやすいという。ただ、近年は医療者での認知度が高まりつつあり、正しく診断される症例が増えてきたことなどから、患者数は増加傾向にあるようだ。

 脚の静脈の血栓や肺塞栓症の予防としては、血液を固まりにくくする薬剤を用いた治療(抗凝固療法)のほか、脱水を避ける、運動、弾性ストッキングの着用などがある。一方、発症した場合は抗凝固療法のほか、カテーテルを血管に挿入して血栓を吸い取ったり砕いたりする治療が行われる。

 肺塞栓症にかかってすぐ死亡する患者の割合は8%だが、その後徐々に死亡率が上がり、2週間後には11%、3カ月後には18%に達するといわれている。死亡例の中には発症時は重症ではなかった患者も含まれ、このような患者では残っていた血栓が関係していると考えられている。実際、急性の肺塞栓症患者の5割近くで、治療開始1年後も血栓が完全に溶けきらずに残っているという。

 肺塞栓症を発症した患者の30%ほどは、治療後も血栓や自覚症状が残り、心機能が低下しているとみられるが、これまでこのような患者はあまり問題視されてこなかった。しかし、ある程度の期間、治療を受けているにもかかわらず、死亡率が上がることが問題視され始め、最近ではこのような状態を「肺塞栓後症候群」と定義する動きがある。同氏は「肺塞栓症はきちんと治療したつもりでも畑尾選手のように元通りに回復しない例も多く、約30%は肺塞栓後症候群となる。そのような患者では生涯にわたって肺塞栓症の再発を予防しなければならない」と指摘した。

 異変を感じたら早めの受診を

 もう一度ピッチに立つために...。畑尾選手は、治療に専念することを決意した。当時受診していた病院の紹介で、同年5月に岡山医療センターを訪れ、松原氏のもとで9月にバルーン肺動脈形成術(BPA)を受けて本格的にサッカーの練習に復帰。2014年7月に夢だったプロサッカー選手として、ヴァンフォーレ甲府に入団した。現在は、血栓ができるのを予防するために抗凝固薬を服用しながら、問題なくプレーを続けているという。

 治療中は、焦りやいらだちもあったが、「今となっては先生方には感謝しかない。ただ、最初に受診した時点で診断がつけば、こんなに長引くこともなかったかもしれない」と話した。また、肺塞栓症に至った原因については「練習中、夏場は小まめに水分を補給するが、異変を感じた冬場は汗をかきにくいため、あまり水分を取っていなかった。それが問題だったかもしれない」と振り返った。

 先日の熊本地震の被災者でエコノミークラス症候群にかかった人が続出し、亡くなった人もいたとのニュースに「他人事ではない」と同選手。「肺塞栓症は誰でもなり得るので、少しでも異変を感じたら早めに受診を」と早期受診を勧めた。松原氏も「今回の地震によるエコノミークラス症候群の患者の中にも肺塞栓後症候群となる人が出てくる可能性がある」との見方を示し、注意を呼びかけた。

(伊達 俊介)

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