五輪メダリストの寺川綾さんが指導、喘息児の水泳教室
2016年06月07日 06:30
発作が起きにくい水泳は、喘息(ぜんそく)の子供にぴったりのスポーツとされている。2012年ロンドン五輪で女子100メートル背泳ぎの銅メダルを獲得した寺川綾さんも、喘息のため水泳を始めた一人だ。そんな寺川さんが、喘息を持つ子供たちを指導する水泳教室が6月4日、東京都内で開かれた。喘息の専門医である昭和大医学部の相良博典教授による喘息教室も併せて開催。受講した子供たちやその保護者だけでなく、講師の寺川さんも満足できたイベントとなったようだ。
「喘息はハンディキャップではない!」
寺川さんは、喘息に良いということで3歳から水泳を始め、20歳でアテネ五輪に出場、27歳で出場したロンドン五輪では銅メダルを獲得するまでになった。水泳教室の冒頭、寺川さんは「喘息だからってできないということはない。今日集まったこの中から、将来のメダリストが出ることに期待したい」と子供たちに呼びかけた。
ゲストで登場したスポーツライターの二宮清純さんも、喘息を抱えながらライターとして世界中を駆け巡って活躍しており、「喘息だと苦労があるのも確か。しかし、それ以上にプラスに転じるものがある」と、喘息をネガティブに捉えないようにアドバイス。「寺川さんから一流指導のメソッド(方法)を学んで、何か一つでもヒントを持ち帰ってほしい」と話した。
さらに相良博典教授は、水泳が喘息に良いことを説明した上で、「運動が重要だが、乾燥が負担になることがある。その点、水泳は乾燥を防ぎ、肺を鍛えることもできる素晴らしい運動。喘息でできないと思わず、一生懸命取り組んでほしい」と助言した。
喜びと発見の水泳教室
今回の「水泳教室&喘息教室」(主催=産経新聞社、グラクソ・スミスクライン)に参加したのは、喘息を抱えた18人の小学生とその保護者。寺川さんの指導の下、子供たちは基礎的なキック(バタ足)の練習から、ビート板を使った種目別の基礎練習、クロールのバリエーショントレーニングなど、短い時間ながらもさまざまな練習をこなした。
1時間に及ぶ教室の最後は、小学2年生から6年生まで全ての児童がそれぞれ得意とする種目で50メートルを泳ぎ切るトライアルも実施。喘息の症状が児童によって軽かったり重かったりするので、「疲れたら無理しない」「体を冷やし過ぎない」など、健康にも十分配慮しながら進められた。
参加した6年生の女子児童は「疲れたけどすごく楽しかった。最初は不安もあったけど、喘息があっても泳げるんだなと気づけてうれしい」とコメント。また、保育園の頃から水泳に取り組んでいるという2年生の男子児童は「片手で泳ぐ(クロールのバリエーショントレーニング)のが面白かった。もっと泳げるようになりたい」と希望を語った。
教室を終え、寺川さんは「すごく幸せな思い」と語った。「最初は(こうした教室を開くことに)不安もあったが、プールに入ると明るく元気になる子供たちの姿を間近で見られてすごく良かった。喘息だから特別に何かができない、と思うのではなく、一つでも"できること"を見つけていくことが大切。そのお手伝いができてとても良かった」
ステロイド怖がらないで
後半の喘息教室では相良教授が、喘息の症状の基礎的な知識から、治療のポイントなどを解説。最近の治療は、気管支を広げて呼吸を楽にする薬(気管支拡張薬)だけでなく、喘息のそもそもの原因となる炎症を抑える薬(抗炎症薬)を組み合わせた配合剤による治療が中心になりつつあると説明した。
なお、抗炎症薬の吸入ステロイドに対し、成長に影響するのではないかと使用をためらう保護者も少なくないが、相良教授は「喘息をコントロールできるために生活の質(QOL)が向上し、健康な子供と同じくらい成長することを示すデータがある」と助言している。
参加した児童の保護者たちは一様に、メダリストの指導を受けられたことを、子供たちにとって「またとない機会」「貴重な体験だった」とした上で、これからも積極的に水泳などの運動を促すようにしていきたいとコメント。相良教授の講義についても、日常生活や食生活の留意点なども示されたことに、「知らなかったこともあり勉強になった」と話していた。
(文・写真/土屋季之)