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乳がん手術、「温存」と「全摘」が逆転か

 2016年08月12日 06:00

 乳がんの手術では、がんとその周辺だけを部分的に切除し、乳房の形をできるだけ元のままにとどめる「温存術」でも、乳房を全て切除する「全摘術」と変わらない治療効果が期待できるとして、温存術が主流となってきた。しかし、この流れは今、転換期を迎えているようだ。このほど東京都で開かれたアラガン・ジャパン主催のプレスセミナーでは、乳がん治療に詳しい昭和大学乳腺外科の中村清吾教授が「3年前に保険で受けられるようになったインプラントによる乳房再建術が広がりつつあることから、全摘術を受ける女性が温存術を選ぶ女性を上回る可能性がある」との予測を示した。同セミナーでは、乳がんの再発をできる限り抑えるとともに、見た目(整容性)も損なわない治療を重視するがん・感染症センター都立駒込病院形成再建外科の寺尾保信部長が同院の取り組みや現状を紹介。さらに、女優の生稲晃子氏が登壇し、全摘術を受けた経験を持つ患者の立場から5年近くに及ぶ乳がんの闘病生活を振り返るとともに、全摘術を選んだ経緯を明かした。

無理な温存術は減る傾向に

 わが国の乳がん患者数は急増しており、1985年の約2万人から2007年には6万人に増え、さらに今年(2016年)には9万人に達すると予測されている。その背景には「食生活の欧米化」「初経が早く閉経が遅い人の増加」「妊娠・出産を経験する女性の減少」などによる影響があるのではないかと考えられている。

 中村教授によると、乳がんの手術ではまず、がんが完全に治った状態を目指す「根治性」が重視される。その一方で、整容性に対する強い希望を抱く患者も多いことから、乳がん手術に占める温存術の割合は6割と高いそうだ。

 ただ、温存術は全摘術と比べて再発率が高く、希望した通りの整容性を保つことが難しい場合もある。こうした状況の中、2013年にインプラントによる乳房再建術が保険の対象となり、治療の流れが大きく変わりつつあるという。中村教授は、治療の変化について「適応を超える無理な温存術は減り、全摘術が増える傾向にある」「かつては温存できるか全摘となるかの二者択一だったが、現在は温存して左右差の少ない乳房が残せるのか、あるいは全摘してきれいな乳房を再建するのか、という新たな選択肢に変わってきた」と説明。近い将来、両者の比率が逆転する可能性があるとの予測を示した。

体への負担少なく社会復帰も早い

 続いて同セミナーでは、寺尾部長が根治性とともに整容性を追求する全摘術の取り組みを紹介。現在、乳房再建術では切除術と同時に「エキスパンダー」を挿入して半年かけて皮膚を拡張させ、インプラントと入れ替える「一次二期再建」という方法を主に行っていると話した。

 なお、都立駒込病院では温存術を行う対象となる患者の条件が厳しく設定されていることが影響している可能性はあるものの、同院では近年、すでに全摘術を受ける患者数が温存術を受ける患者数を上回っているという。また、全摘術を受ける患者の約6割に再建術が行われているそうだ。同部長は「インプラントによる再建は自家組織を用いた場合に比べて体への負担が少なく、社会復帰も早い」と、そのメリットについて説明した。

生命を最優先するために全摘を選択

 一方、生稲氏は5年近くに及ぶ乳がんの闘病生活を振り返り、再発を繰り返し、右乳房の全摘同時再建術を受けるに至った心境を次のように語った。「小さい子供もいたので、確実に生命を優先する全摘術を選択した。再建術も行い、今は胸の膨らみが戻って普通に洋服が着られて幸せ。再建術を希望している患者はたくさんいると思う」。

(伊藤茂)

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