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柑橘類フラボノイドのナリンゲニンに肥満関連疾患予防の可能性

2015年10月27日 13:52

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 近年,わが国では肥満を基盤とする生活習慣病の患者が増加しており,医療費の増加と相まって社会問題となり,ますます予防医療・代替医療の重要性が指摘されている。九州保健福祉大学大学院生化学講座の吉田裕樹氏は,第32回和漢医薬学会学術大会(8月22〜23日,大会長=富山大学大学院ウイルス学教授・白木公康氏)のシンポジウム「和漢医薬研究の新たな方向性」で「柑橘類フラボノイドのナリンゲニン(Nar)がマクロファージ浸潤を抑制し,肥満関連疾患を予防する可能性が示された」と述べた。

脂肪組織の炎症バランスの破綻により疾患発症

 生活習慣病に対するセルフメディケーションが推進され,健康食品やサプリメントの利用が増加している一方で,それら健康食品などによる健康被害や品質管理の問題がしばしば報告される。日本ではナチュラルメディシン・データベース(NMDB)が公開されているが,全ての製品については網羅されておらず科学的評価が不十分なため,エビデンスの構築・蓄積が必要となっている。このような背景から吉田氏らは,身近な食品成分の肥満関連疾患に対する科学的な有効性評価を通して,新たな疾患予防法・改善法の開発を目指し,研究を行っている。

 肥満は慢性炎症性疾患で,脂肪組織はさまざまな物質を分泌する内分泌器官であると考えられている。肥満の脂肪組織では,マクロファージの浸潤や炎症性アディポカインの腫瘍壊死因子(TNF)α,遊離脂肪酸(FFA)など炎症性物質の分泌が増加し,逆に抗炎症性物質アディポネクチンなどの分泌は抑制される。このような脂肪組織の炎症バランスの破綻が,糖尿病,脂質異常症,高血圧,動脈硬化などのさまざまな疾患の発症機序となっている。

ナリンゲニンがMCP-1分泌を抑制

 フラボノイド類は,以前から抗酸化,抗炎症作用,抗腫瘍作用などを持つことが知られており,フラボノイドを多く含む食事の継続的な摂取は慢性疾患を予防する可能性が示唆されている。しかし,個々の食品成分の詳細な有効性評価や作用機序の解明は十分に行われていない。

 吉田氏らは,グレープフルーツの果皮に多く含まれるNar(ナリンギンのアグリコン)を用いたさまざまな研究を行っている。Narを用いた脂肪組織・細胞の機能制御に対する評価のうち,マクロファージ浸潤に対するNarの影響についての研究を報告した(Biochem Biophys Res Commun 2014; 454: 95-101)。

 同氏らは,C57BL/6Jマウスを①標準食②高脂肪食③高脂肪食+Nar−をそれぞれ摂取させる3群に分け,2週間飼育。その後,身体的・血清生化学的パラメータおよび脂肪組織中のマクロファージ数の測定を行った。

 その結果,高脂肪食摂取マウスにおける体重や脂肪重量の増加については,2週間という短い期間では,Narはパラメータには影響を与えなかった。しかし,リアルタイムPCRを用いた検討で,NarはマクロファージのマーカーであるMac-2の発現量を有意に抑制することが分かった。また,免疫染色によっても,高脂肪食によって誘導されるマクロファージの浸潤がNarの投与によって有意に抑制されることが確認された()。

 同氏らは次に,Narがマクロファージの浸潤を抑制する機序を検証する目的で,マクロファージ浸潤に深く関わるケモカインの一種MCP-1の発現量の変動について検討した。その結果,高脂肪食の摂取でMCP-1の発現量は有意に増加するが,Narの投与によって,MCP-1の分泌が抑制されることが分かった。

 また,MCP-1の発現制御に関連する細胞内シグナル伝達の経路の影響について検討したところ,高脂肪食によって活性化されたc-Jun N-terminal kinase(JNK)経路がNarによって抑制された。JNK阻害薬を用いた研究により,in vitroでもNarはMCP-1の発現,JNK経路の活性化を抑制することが認められた。

短期間で有用物質をスクリーニング

 Narのような柑橘系フラボノイドは生物学的利用能(bioavailability)が低いことが知られており,in vitroの実験をするときに生理的濃度で実際にその現象が起こっているのかを確認することが非常に重要である。そこで,マウスにNarを単回投与して,その後の血中のNar濃度をHPLCで測定したところ,ピーク濃度は5〜10μMであった。吉田氏は「この結果から,われわれが示したデータは生理的濃度でも十分起こりうるのではないか」と考察した。

 今回の研究で,Narは肥満初期の脂肪組織へのマクロファージ浸潤を抑制することが明らかになり,日常的・継続的なNarの摂取は肥満関連疾患を予防する可能性が示された。一般に肥満,糖尿病に対してはサンプルを長期間摂取させて,その後有用かどうかを評価する実験系が多く見られる。しかし,今回用いたような肥満初期におけるマクロファージ浸潤に対する影響を測定することで,短期間に個体レベルでの有用物質をスクリーニングできるのではないか,と同氏は考えている。

(慶野 永)

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