同じ疾患でも医師によって医療費にばらつき
しかも高額な医師で患者アウトカム優れるとは限らない?
2017年03月22日 10:20
4名の医師が参考になったと回答
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地域間あるいは施設間で医療費に差があることは知られているが、同じ施設に勤務していても、医師によって入院患者の治療にかかる医療費にばらつきがあることが、米・Harvard T. H. Chan School of Public Healthの津川友介氏らによる研究から明らかになった。同研究では、医療費が高い医師と低い医師の間で患者の死亡リスクや再入院リスクに差はないことも示され、医療費が高い医師の治療を受けた患者のアウトカムは必ずしも優れているわけではない可能性が示唆された。研究結果はJAMA Intern Med(2017年3月13日オンライン版)に掲載されている。
医療費のばらつきは「施設間」よりも「医師間」の方が大きい
これまで多くの研究で、地域間あるいは施設間で医療費に差があることが示されているが、入院の必要性や検査内容を含め、最終的に治療内容を決定するのは医師だ。しかし、医師によって医療費にどの程度の違いがあるのかについては不明だった。また、同じ施設に勤務する医師の間で同一の治療にかかる医療費に差がある場合、医療費が高い医師の方が患者アウトカムが優れているのかどうかなど、医療費の違いが臨床的にどのような結果をもたらしているのかも明らかにされていなかったという。
そこで津川氏らは今回、2011~14年に米国内で内科疾患で入院し、3,195施設で一般内科医5万79人による治療を受けた65歳以上のメディケア受給者83万9,512例のデータを後ろ向きに解析した。 まず、入院費用のばらつきを説明する要因について、施設、医師、患者の要因による寄与度を算出したところ、それぞれ6.2%、10.5%、83.3%と、施設間よりも医師間の医療費のばらつきの方が大きかった。
次に、2011~12年に10例以上の入院患者の治療を担当したホスピタリスト※11万3,833人のデータを用いて、医師間の医療費の差と患者のアウトカム(30日死亡率および再入院率)との関係について解析※2した結果、同じ施設に勤務する医師において医療費が100ドル増加するごとの調整後のオッズ比(OR)は30日死亡で1.00(0.98~1.01、P=0.47)、再入院で1.00(同0.99~1.01、P=0.54)と、高い医療費をかける医師で患者アウトカムが優れているわけではないことが示された。
「日本でも同様の研究が必要」
研究グループは、医療サービスの効率化を目指した政策は主に施設をターゲットとしているが、今回の研究では同じ施設に勤務していても医師によって医療費にばらつきが認められたことから、「施設だけでなく個々の医師の診療パターンにも照準を合わせた介入が必要ではないか」と指摘。また、医師ごとの医療費は患者アウトカムに関係しないとの結果を踏まえ、「高額な医療費をかけている医師に対して医療資源を抑制したとしても、医療の質が低下することはない可能性がある」との見方を示している。
さらに津川氏は、自身のブログで「医療費の増加は米国だけでなく日本でも大きな問題だが、日本で同様の結果が得られるかどうかは現時点では不明であるため、今後の研究が必要」とした上で、「医療の質を落とすことなく医療費を抑制するためには、医師の診療パターンのばらつきについて理解し、それが医療費や患者の健康にどのような影響を与えるのかを評価する必要がある」と強調している。
※1 主解析対象をホスピタリストとした理由について、津川氏らは「ホスピタリストはシフト勤務制のため、患者が入院を要する疾患を発症したときにたまたま勤務していた医師が担当医となる。そのため、医師によって患者の重症度に大きな違いはないと考えられることから、患者要因によるアウトカムへの影響をできるだけ取り除くため」と説明している
※2 患者要因(年齢、性、人種、主な診断名、併存疾患、世帯収入、メディケイド加入の有無)、医師要因(年齢、性、卒業した医学部)で調整
(岬りり子)