心不全は糖尿病合併症! 薬剤選択にも要注意

米国糖尿病学会のコンセンサスレポートから

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レポートの背景:冠動脈疾患がなくても糖尿病患者では心不全が生じる

 今年(2022年)改訂された日本糖尿病学会の『糖尿病治療ガイド2022-2023』の第7章「糖尿病合併症とその対策」の"慢性合併症"の項には、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、動脈硬化性疾患、糖尿病性足病変の記載があり、"併存疾患"の項では、骨病変、手の病変、歯周病、認知症、がんについての記載がなされている。しかし、そこに心不全の文字はない。

 米国糖尿病学会(ADA)の機関誌に、"Heart Failure: An underappreciated complication of diabetes. A consensus report of the American Diabetes Associatoin"(「心不全:あまり認識されていない糖尿病合併症、ADAコンセンサスレポート」)というタイトルの総説が掲載された(Diabetes Care 2022; 45: 1670-1690)。

 私は糖尿病専門医であるが、恥ずかしながら、心不全が冠動脈疾患と独立した糖尿病合併症であるとの認識はなかった。ADAもこのレポートの冒頭で、伝統的に糖尿病合併症といえば、腎症、網膜症、神経障害、動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳卒中、末梢動脈疾患)であったと述べている。しかし、2012年にオランダのグループが、2型糖尿病患者では原因不明の心不全や左室機能障害が増加すると報告しており(Diabetologia 2012; 55: 2154-2162)、SGLT2阻害薬などによる心血管アウトカム試験において、虚血性心疾患の予防と独立して心不全の予防効果が得られるなど(の赤字部分で比較していただきたい)、糖尿病患者の自然経過の中で、虚血性心疾患の結果として心不全が生じているわけではないことがはっきりしてきたといえる。

すなわち、

stage A(糖尿病などのリスクステージ)→stage B(虚血性心疾患などの基質的心疾患あり、心不全兆候なし)→stage C〔(虚血性心疾患の結果として)心不全兆候あり〕

stage D(末期心不全)

という軌跡をたどるという既存の概念は崩れ、

stage A(糖尿病というリスク)→stage B〔糖尿病性血管症(虚血性心筋症)もしくは糖尿病性心筋症という器質的心疾患あり、心不全兆候なし〕→stage C(心不全兆候あり)

stage D(末期心不全)

という軌跡が新たな概念として成立している。虚血性心疾患(大血管症)がなくても糖尿病の合併症として心筋症は生じるということである。

 本稿では、計21ページもある膨大なコンセンサスレポートからkey pointsだけを選択して概説したい。

表. SGLT2阻害薬による心血管アウトカム試験の結果

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(山田悟氏作成)

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