HIVは「予防」できる時代です

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:HIV予防目的のPrEPが世界では普及しつつある

 医療関係者である皆さまは、HIV感染についてどのようなイメージを持っているだろうか? 過去には、英国のロックバンド・Queenのボーカリストであるフレディ・マーキュリーのような有名人がHIV感染からAIDSを発症して亡くなるケースも多かった。Queenの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』を思い出す人も少なくないと思う。

 しかし、AIDSによる世界の死亡者は2010年ごろから徐々に減少していることをご存じだろうか。国連合同エイズ計画(UNAIDS)のファクトシート2021によると、2005年にはAIDSによる死亡者は世界で190万人いたが、2010年には130万人に減少し、2015年には90万人、2020年には68万人と徐々に減少してきている。 その理由として、抗レトロウイルス薬による治療が発展してきたためと考えられている。現在、HIV感染者の平均余命は、早期に発見し適切な治療を受けることで、一般の人と変わらない水準まで延びているのだ。

 かつては、HIV感染と診断されたらすさまじい闘病を要すると考えられていたが、近年開発された薬剤は治療効果が高く、薬剤耐性が出現しにくく、副作用が抑えられるようになってきた。早期に抗レトロウイルス薬による治療を開始すれば、HIVウイルスが免疫システムを攻撃するのを防ぎ、感染拡大を食い止めることができる。もはやAIDSは高血圧と同様の、「慢性疾患の一種」として考えられている。

 そして、HIVは抗HIV薬を用いた曝露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis;PrEP)により「予防する」時代へと変化してきている。

簡素化・単純化、脱医療化、デジタル化によりPrEP推進

 PrEPの対象は、Men who have Sex with Men(MSM:男性間性交渉者)やCommercial Sex Worker(CSW:性風俗産業従事者)といった、主にHIV感染の高リスク例である。HIV陰性者が、リスクのある性行為の前に抗HIV薬を服用することによって、自身のHIVへの感染を予防することが可能で、感染リスクを99%低減させる効果が期待できるという。

 具体的には、Daily PrEPとしてエムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシル(TDF/FTC、商品名ツルバダ)またはエムトリシタビン・テノホビル アラフェナミド(TAF/FTC、デシコビ)を1日1錠内服する方法と、オンデマンドPrEPとして、性交渉前後の決められたタイミングにTDF/FTCを内服する方法がある。

 2015年に世界保健機関(WHO)が出したPrEPガイドラインでは、その時点でPrEPのデータが少なかったため、「慎重な"害を与えない"原則」の下で処方が推奨された。つまり、処方前と処方中に定期的にHIV、B型肝炎ウイルス(HBV)、腎機能や他の性感染症を評価する必要があった。しかし、今年(2022年)8月3日に出されたPrEPのWHO実施ガイダンスの更新に関するテクニカルブリーフでは、PrEPを「simplity(簡素化・単純化)、demedicalize(脱医療化)、デジタル化」することで、さらに導入を進める方針となっている。具体的には、HIV検査を定期的に受ければ、薬局などで抗HIV薬が入手できるようになると予測されている。

日本におけるPrEPの現状

 日本ではPrEP導入が他国より遅れており、個人輸入やクリニックでの自由診療が先行している。さらに、処方前の検査などは曖昧でルールがない状態であった。そこで日本エイズ学会は今年7月、「日本におけるHIV感染予防のための暴露前予防(PrEP)利用の手引き(案)」を公式サイトで発表し、パブリックコメントを募った。近い将来、国内でのルールが整備されていくと考えられる。

 今回は、PrEPに対するMSM当事者の認識について、システマチックレビューとメタ解析に基づき世界の現状を概説している論文を紹介する。

Sun Z, et al. Increasing awareness of HIV pre-exposure prophylaxis (PrEP) and willingness to use HIV PrEP among men who have sex with men: a systematic review and meta-analysis of global data. J.Int AIDS Soc. 2022 Mar; 25(3): e25883.

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