急速血糖改善のタブーに迫る

「網膜症既往者は緩徐に」は見直すべきか

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:DCCTが示した30年来の教訓

 Diabetes Control and Complicatons Trial(DCCT、N Engl J Med 1993; 329: 977-986)は、臨床糖尿病学における金字塔のような研究である。1型糖尿病患者が生命維持のために1日1回ないし2回のインスリン注射を継続する場合(従来療法群:平均HbA1c 9.0%)に比べて、血糖正常化を目指して1日3回以上のインスリン注射をしたり、インスリンポンプ療法を採用したりすることで(強化療法群:同7.0%)、糖尿病に合併する細小血管障害(神経障害、網膜症、腎症)の発症や進展を予防できることを示したのである。

 DCCTにより、血糖を管理することで糖尿病合併症の予防が可能であることが初めて証明されたといってよい。ただ、網膜症については、未発症者では純然たる発症予防効果を示したものの、既往者では最終的には進展予防効果を示したものの、最初の数年間は強化療法群の方が進展が速いという結果であった。

 この強化療法群における初期の網膜症の悪化について、一般には急速な血糖値の改善が網膜症の悪化をもたらしたのだろうと解釈されている。そのため過去30年間、網膜症のある患者では、血糖値の改善を緩徐にするよう糖尿病専門医は意識してきた(具体的には1カ月当たりのHbA1cの低下を0.5%以内にすることが望ましいとされることが多い)。

 しかし、このたび、網膜症の悪化には血糖値の改善速度が関与していないことを示唆する研究結果が米国糖尿病学会(ADA)の機関誌に報告された(Diabetes Care 2023; 46: 1633-1639)。今後の糖尿病治療の在り方に影響を与えうると考え、ご紹介したい。

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