泌尿器科分野におけるオンライン診療の世界情勢

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:新型コロナパンデミックが起こしたオンライン診療におけるパラダイムシフト

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染拡大のパニックが起こった2020年ごろ、郵送によるSARS-CoV-2検査が流行したのを皆様は覚えておられるだろうか。

 実は、郵送検査の技術自体は新しいものではないし、本来は自治体が定めた登録衛生検査所で検査を行うことが望ましいなどとする、郵送検査ガイドラインを学会主導で策定しようとしていたところだった。しかし新型コロナパニックの際に、なし崩し的に多くの企業がSARS-CoV-2検査に(お金もうけを目的に)参入し、一部は登録衛生検査所でない施設で検査が行われてしまった。時に臨床検査技師さえいないケースもあったと聞いている。そのような検査所は「野良検査所」とも言われ、「自分たちが行っているのは医療でない」と開き直っていたりするので、たちが悪いのだ。

 話は変わるが、新型コロナ騒動を背景として世界中でオンライン診療が普及・発展した。日本でも、2020年4月にオンライン診療による初診が解禁された。国内の情勢として、オンライン診療を行う施設は一時的に増加したが、実はその後増えることなく横ばいで推移し、初診からオンラインで受診できる医療機関は現時点でも7%に満たない。2020年以降、日本でのオンライン診療普及率は再診のみ可能なクリニックを合わせて約15%に上昇したが、フランスの50%、米国の60%、英国の70%と比較すると、日本は世界的に見て極めて低い。

 日本でオンライン診療が普及しづらい原因として、以下の点が指摘されている。

診療報酬が低い

 オンライン診療を保険診療で行う場合、診療報酬は対面診療よりも低い。2022年10月に診療報酬が改定され、オンライン診療の初診料・管理料ともに引き上げられたが、対面診療の87%と依然低い状況が続いている。

デジタルヘルスの利用率が低い

 日本では健康管理におけるデジタル技術の利用率が37%と低く、特にオンライン診療・電子健康記録・ウェアラブル技術の活用状況において世界平均(60%)との差が大きい。

データセキュリティへの信頼度が低い

 第三者による個人のヘルスデータの安全管理に対する信頼度が、世界平均と比較して日本では全般的に低い。

医療へのAI(人工知能)活用に対する不安

 日本人は医療への人工知能活用に不安を感じやすく、AIによる診断支援に不安を感じている割合は世界平均の33%に対し、日本は46%と高い。診断に加えカルテ記載補助などの管理目的でも同様の傾向がある(不思議なのだが、お隣の中国はデータセキュリティやAIに対する信頼度が非常に高い)。

医療・病院アクセスが良い日本

 医療がフリーアクセス型の日本などの国ではデジタルヘルス利用率が低い一方、プライマリケア医(GP)が機能しているゲートキーパー型の英国といった国は利用率が高い。諸外国に比べ医療アクセスが良好な日本の特性は、患者がオンライン診療を利用する動機を下げる一因となりうる。

参考:アクセンチュア「日本におけるデジタルヘルスのいま~グローバルサーベイにみるデジタルヘルス活用の現状と課題」 

 日本ではまだまだ発展途上ではあるが、世界的に見てオンライン診療は急激に発達しつつある。実は、泌尿器科領域の勃起障害治療や男性更年期障害の診療といったメンズヘルス分野はオンライン診療と相性が良い分野でもあり、海外ではさまざまな医療サービスが生まれている。

 今回は、米国のメンズヘルス分野におけるオンライン診療がどうなっているのか、ガイドラインに準じた治療はできているのかを検証した2つの論文を紹介する。

Erin Jesse , Nannan Thirumavalavan , Aram Loeb. Increase in Direct-to-Consumer TelemEDicine in Urology. Curr Sex Health Rep 2022; 14(4): 119-127

Christopher Lim , Winston Wu , Justin La, Vincent Chan , Kathryn M. Schubach , Glenn Duns, Daniel Lantsberg , Darren J. Katz. Online ahead of print. Direct-to-Consumer TelemEDicine Practices in the Health and Fertility of Men: A Systematic Review of the Literature. World J Mens Health 2024 Jan; 42(1): 148-156

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