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"エレファント・マン"の原因遺伝子が明らかに―米研究

 2011年09月15日 12:00

 プロテウス症候群という病名になじみがなくても、1980年に公開された映画「エレファント・マン」の主人公が罹患していたかもしれない疾患と聞けば、何となく覚えている人もいるだろう。遺伝子疾患であるプロテウス症候群は長らく原因不明とされてきたが、その原因遺伝子が特定されたと、米国立ヒトゲノム研究所のMarjorie J. Lindhurst氏らが、米医学誌「New England Journal of Medicine」(2011; 365: 611-619)に報告した。なお、プロテウスとは、ギリシャ神話に登場する、あらゆる物に変身できる能力を持つ海神のこと。

非家族性の遺伝子疾患

 「エレファント・マン」で主人公のモデルとなったジョゼフ・メリックは1862年、英国に生まれた。生後2歳にも満たないうちに身体に変形の兆しが見え始め、成長するにつれて骨格の変形と皮膚の異常な増殖が、左腕を除く全身に広がっていった。"エレファント・マン"の名の由来となった、上唇から突出した象の鼻状の皮膚組織は、一時20センチメートルほどにまで達したという。

 現在、先進国で500例以下の患者しか確認されていないプロテウス症候群は、いわゆる家族性の遺伝子疾患ではない。発生初期の細胞の1つに偶然生じた遺伝子変異が原因で、生後、その変異細胞由来の組織が正常細胞の間でモザイク状に異常増殖する疾患だとの仮説を、ドイツの皮膚科医であるRudolf Happle氏が提唱した(「Journal of American Dermatology」1987; 16: 899-906)。

 ただ、原因遺伝子の特定となると、家族性ではないことから通常の連鎖解析が使えず、新たなDNA解析技術(次世代シークエンサー)の登場までほとんど不可能と考えられた。

原因遺伝子はがんを引き起こすAKT1

 Lindhurst氏らは、この仮説を確かめるために29例のプロテウス症候群患者から158のDNAサンプルを調製し、その一部を使って、次世代シークエンサーを用いた特定領域のみの塩基配列解読を行った。その結果を同じ患者の正常組織と異常増殖組織とで比較したところ、異常増殖組織だけでAKT1で変異が見つかった。この変異は、29例のうち26例で認められたという。

 プロテウス症候群の原因遺伝子がAKT1と同定されたことから、今後この遺伝子を標的とした治療薬開発につながることが期待される。幸いなことに、AKT1は既にがん遺伝子として知られていたため、それを標的とした薬剤はこれまでにもいくつか開発されているようだ。プロテウス症候群の完治への道のりは、それほど遠くないかもしれない。

 27歳の若さでこの世を去ったジョゼフ・メリックが、その晩年を過ごした現在の英王立ロンドン病院には、今も彼の骨格標本が保存されている。彼が本当にプロテウス症候群だったかどうかを確かめるべく、Lindhurst氏らは同院から骨格標本の一部を取り寄せたが、そこから抽出されたDNAは劣化が進んでおり、解析不能だったという。こちらの解決は、おいそれとはいかないようだ。

MT Pro 2011年9月7日 掲載

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