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ポリオワクチン切り替えで予防接種制度の問題浮き彫りに

 2012年04月25日 13:51

 日本で野生株ポリオの患者の報告がゼロになって30年、ようやくこの9月からワクチン関連ポリオ麻痺(まひ)の危険がない不活化ポリオワクチンへの切り替えが行われる(関連記事)。2年前からの患者団体や一部の医師らが発端となった不活化ワクチン早期導入への働き掛けを機に保護者の要望が高まり、承認申請から数カ月という異例の早さで審査手続きが進行中だ。この一連の動きには一定の評価がある一方、4月23日に開かれた「第3回不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会」(座長=川崎市衛生研究所・岡部信彦所長)では、日本の予防接種制度の問題があらためて浮き彫りになった。

9月から一斉に接種受けられるのか

 昨日の検討会で示された今年度末までの不活化ポリオワクチン需要量は、367.9万回分。これに対し、同時期までの供給予定量は477万回分。需要量は昨年度の経口生ポリオワクチン接種未完了者および今年度のワクチン接種対象者約133万人の2~3回接種分を基に算出されている。

 需要予測には今春に生ワクチン集団接種を受けなかった人、医師の個人輸入による未承認不活化ワクチンの接種者は含まれていない。厚生労働省によると、最初に導入される単独不活化ワクチンは4月末に承認見込みで、その後の生産、検定などの過程を経て、8月下旬の発売が予定されている。今回、複数の構成員から、十分な供給量および確保などをかんがみると、9月1日からの不活化ワクチン定期接種導入は妥当との意見が示された。

 なお、初回の出荷予定量は約148万回分で、その後は月50万回分の供給が行われる見通し。厚労省は、予定通りに承認、販売が進めば、9月当初にいきなり不活化ワクチンの不足が起こる可能性は低いとの見方を示している。ただし、この春の生ワクチン接種率低下の程度や未承認不活化ワクチン接種者の数といった不確定要素があるともしており、それらの人たちの追加接種申し込み状況によっては、年末にかけて供給が厳しくなる可能性もあるとされた。

接種スケジュールがさらに混雑

 9月の不活化ワクチン切り替えをもって、2009年のBCGに続き国内のほとんどの自治体で実施されている集団予防接種は消失、すべてのワクチンが病医院での個別接種となる可能性が高い。今後、日本ではジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)と不活化ポリオワクチンの四種混合ワクチンへの移行に向け、従来のDPTの接種時期に合わせた不活化ワクチン接種スケジュールが推奨される見込みだ。しかし現在、DPTと経口生ポリオワクチンは別に接種されているほか、この2~3年で生後1歳半までに接種が推奨されているワクチンは11種類に増加している。

 同時接種は海外で広く行われているが、日本で昨年3月に起きた同時接種後の死亡例報告の影響で、保護者の同時接種に対する不安が完全には払拭されていない。一方、現時点ですでに定期・任意の乳幼児向けワクチンの完了は同時接種なしには不可能との意見もある。

 日本小児科学会は「ワクチンで予防できる病気から確実に小児を守るには、必要なワクチンを適切な時機に適切な回数接種することが重要」と、同時接種がもっと一般的に行われるべきとの見解を示す。国立感染症研究所の「予防接種スケジュール」などによると、定期・任意すべての乳幼児用ワクチンを「1回の接種で2種類までの同時接種」を行った場合、生後18カ月までの接種回数は最大15回、可能な限り同時接種を行った場合でも10回、すべてのワクチンを単独接種した場合の回数は25回とされている。

 9月以降はここに不活化ポリオワクチンの接種回数がさらに最大4回分加わることになる。経口生ポリオワクチン2回分を未接種として差し引いても、最も多い場合の接種回数は27回に上る。この回数を、生後2~18カ月にすべて単独接種で完了することは、現行法上の生または不活化ワクチン同士の接種間隔の点からも、さらに難しくなるとみられる。

 新潟大学小児科の齋藤昭彦教授は、現行法における「医師が特に必要と認めた場合には同時接種が可能」から、さらに踏み込んだ変更を行ってはどうかと提言。これに対し、座長の岡部所長は「医師の定義は、個別の医師に限らず、すでに医師の集団(日本小児科学会)として認めているという解釈もできる」との見方を示した。また、岡部所長ほか複数の構成員からは、現場の混乱を最小限に抑えるためにも四種混合ワクチンの迅速な導入が望ましいとの意見が出された。

個別接種開始時の混乱に対する懸念も

 不活化ポリオワクチン個別接種の開始に当たり、いち早い接種を希望する保護者からの医療機関への予約集中を心配する声も聞かれた。「2009年の新型インフルエンザ流行当時、ワクチンの供給に関する情報が不足し、医療機関に問い合わせが集中したほか、複数の医療機関に同時に予約を入れるなどの問題が発生した」と日本医師会の小森貴常任理事。不活化ポリオワクチン定期接種化に当たっては、ワクチンの供給予定など保護者が安心して接種を受けられるよう十分な広報を行うことを求めた。

 現在、個人輸入で不活化ポリオワクチン接種を行っている病医院では、電話での問い合わせや不活化ワクチンの予約が増加したために、診療や他の予防接種に支障を来したり、不活化ワクチンの予約を一時的に制限したりする事態も散見される。定期接種開始から間もない10月頃には、季節性インフルエンザワクチンのシーズンも始まる。

 今回の検討会では、医療機関からの問い合わせに対応するためのコールセンター設置を考えている自治体もあることが明らかにされた。一方、「接種を希望して来られても、1人で接種できる数は限られている」と、ある程度の混乱は仕方ないという諦めのようなコメントも聞かれた。

「生ワクチンの一時停止を」

 現在、経口生ポリオワクチンの接種率が低下し続けている。現在、春の定期接種シーズンを迎える中、検討会では川崎市の今春の接種率が現時点で40%台まで落ち込んでいるとの情報も出された。患者団体「ポリオの会」の小山万里子代表は「昨年に続き、再びワクチン関連ポリオ麻痺の患者が出るのではないかと大変懸念している。ポリオの会には1日10件程度、ポリオワクチンに関する問い合わせが来る。まさに今、保育園で生ワクチンを接種した子供と未接種の子供の接触による発症の危険性も十分あり得る。思い切って生ワクチンの接種そのものを中止できないのか」と発言。

 これに対し、岡部所長は「ワクチン関連ポリオ麻痺の懸念は十分理解できるが、今、生ワクチンを停止するのは危険。仮に今、国内でポリオの発生があれば、生ワクチンを用いるしかない」と応じた。

 国内でのポリオ集団発生時の対応については、今後の検討会で話し合われることとされた。厚労省では9月のIPV定期接種開始に関する内容を含め、近日中にあらためてポリオワクチン接種の推奨を行う予定だという。

 なお、9月までには、同定期接種開始に当たる予防接種実施規則改正などの手続きとしてパブリックコメントの実施も予定されている。

(編集部)

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