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中国で発生の鳥インフル、なぜ人に感染したのか

 2013年04月09日 12:00

 中国で発生している鳥インフルエンザ(A/H7N9)は、4月8日現在で上海を中心に21人の感染者を出し、うち6人が死亡している。現地では食用の鳥類10万羽を殺処分するなど防疫強化に努めており、人から人への感染は認められていない。しかし、中国政府は今後も感染が広がる可能性を示唆している。これまで鳥の間でしか感染しなかったはずのウイルスがどうして突然、人に感染するようになったのか。国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第1室の小田切孝人室長によると、ウイルスの「HA」という蛋白質の遺伝子が、人間に感染しやすい状態に変異しているという。

病原性低くタミフルなどが有効か

 インフルエンザウイルスにはA、B、C型があり、流行するのはA型とB型。球体の周りには、感染の際に生物の細胞(宿主細胞)に取り付く「HA(ヘマグルチニン)」や、取り付いて複製した子孫ウイルスを細胞から切り離し、別の細胞への感染を可能にする「NA(ノイラミニダーゼ)」など、「スパイク」と呼ばれるトゲ状のタンパク質が付いている。タミフル(一般名オセルタミビル)などのNA阻害薬は、NAの働きを妨害して子孫ウイルスを別の細胞に感染させないようにする薬だ。

 HAは、細胞の表面にある「シアロ糖鎖」を目標に取り付く。このシアロ糖鎖にはヒト型受容体(α2-6型)や鳥型受容体(α2-3型)があり、鳥インフルエンザウイルスは通常、鳥型受容体を優先的に目標として認識する。ところが今回発生している鳥インフルエンザ(A/H7N9型)ウイルスは、ヒト型受容体を優先的に目標として認識することが分かった。さらに、鳥インフルエンザウイルスは通常、鳥の体温(40~41度)で増えやすいが、今回のウイルスは人間の喉などの温度(34~35度)で増えやすくなる遺伝子変異も認められた。

 こうして人間に感染しやすく遺伝子が変異したことが分かったが、小田切室長によると、人から人に感染する力を持つにはさらに多くの遺伝子変異が必要で、今のところそうした変異は認められていないという。

 一方、感染した際の重症度(病原性)を示す部分は、季節性インフルエンザウイルスと似ており、高病原性鳥インフルエンザ(A/H5N1型)ウイルスとは異なるアミノ酸配列であることが分かった。病原性の高まりに関係する遺伝子変異がいくつか見つかったが、小田切室長は「低病原性のウイルスである可能性が高い」としている。

 気になるのが、現在使える抗インフルエンザ薬が効くかどうかだが、タミフルやリレンザ(一般名ザナミビル)などが有効な可能性が高いという。しかし、シンメトレルなどの商品名で知られるアマンタジンは効かない可能性が高いようだ。

重症化の要因は不明

 以上のことから、小田切室長は「今回、中国で発生しているインフルエンザウイルスは、人への順化(適応)が一歩進んだウイルスと言える。パンデミック(世界的な流行)の可能性は高病原性鳥インフルエンザ(A/H5N1型)ウイルスよりも高いと推定されるが、必ずしも起こるとは考えていない」とコメント。さらに「A/H5N1型ウイルスのような、高病原性を起こす遺伝子マーカーは見つかっていない」とした。

 ではなぜ、死亡例が発生するなど重症化しているのか。それについては「要因は全く分からない」としつつ、「考えられるのは、新しいウイルスなので感染者は抗体を持っていない。そのため、症状が強く出るのかもしれない」と推測している。

 世界保健機関(WHO)ではH7型に対応するワクチン候補株を6種類準備しており、いつでも製造できる状態。しかし、今回のウイルスは、候補株と抗原性(抗体を作らせる性質)が大きく異なる可能性が指摘されている。そのため、今回の感染例から分離されたウイルス株を解析し、ワクチン製造の準備に入る必要があるという。

(小島 領平)

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