速やかに治療を受けましょう
2013年04月15日 18:00
2-1放っておいたらどうなる? 関節リウマチの経過
関節リウマチの経過は、単周期型、多周期型、進行型の3タイプに分かれます。治療を受けずにそのままにしておいた場合、これらのいずれかの道をたどることになります。
関節リウマチと診断された時に、どのタイプに当てはまるのかを予測することはできません。病状がどんどん進行する人ばかりではありませんし、すべての人が同じ治療法を必要とするわけでもありません。治療の進め方は、あくまでもケースバイケースで判断し、選択していくことになります。この点が、関節リウマチの治療を難しくしています。例えば、適切な治療を受けることなく健康食品や宗教などで「リウマチが治った!」というケースがあるかもしれませんが、それは「単周期型」で特に治療しなくても自然に治まるタイプだったのかもしれません。しかし「進行型」の人が適切な治療を受けなければ、病状がどんどん悪化してしまうという悲劇を招きます。
関節リウマチによって起きる関節破壊は、発症間もない時期から進み始めることが明らかになっています。関節はある程度以上壊れてしまうと元には戻りません。新しい薬物療法が可能になった今、関節リウマチは早く治療を開始することが関節を守れるかどうかの鍵となっています。
2-2 関節リウマチの症状は関節だけに起こる?
この病気の特徴は、症状が関節に現れることにありますが、免疫系の暴走が身体の他の部分に症状を現すことも少なくありません。眼の乾き(ドライアイ)や口の乾きはよく見られる症状(シェーグレン症候群の合併)ですし、眼の病変としては上強膜炎もよく起こり、時には強膜炎にもなります。
後頭部、ひじやひざの外側、かかとなど、骨が出っ張っている部分の皮下にできるコブ状のしこりを「リウマトイド(リウマチ)結節」といいます。これは関節リウマチ特有の症状です。その部分が頻繁に擦れることによって大きく固くなり、自然に小さく柔らかくなることも多いのです。
命に関わる可能性のある合併症として、肺に炎症が起こり、次第に肺が弾力を失って固くなってしまう間質性肺炎が要注意です。血管の壁に炎症が起きる血管炎も重要で、これらの症状が目立つ場合は「悪性関節リウマチ」と診断されます。
このほか全身にさまざまな症状が現れることがあります。なにか気になる症状があれば、リウマチとは関係なさそうに思えても、念のため主治医に相談しましょう。
2-3目標達成に向けた治療「T2T」って何?
関節リウマチの治療は、「目標達成に向けた治療(Treat to Target:T2T、ティー・トゥー・ティーと呼ばれます)」という考え方に基づいて行われるようになりました。このT2Tでは、まず最初に到達すべき目標を「臨床的寛解」に置いています。「臨床的寛解」とは、炎症によって引き起こされる関節リウマチの症状・徴候、つまり痛みや腫れが全くないことをいいます。
寛解には「臨床的寛解」のほかに、画像検査で関節破壊の進行が見られない「構造的寛解」や、日常生活での動作に困ることがほとんどないことを言う「機能的寛解」があります。T2Tでは、まずは「臨床的寛解」の達成を目指した数値目標を設定し、その目標を達成するまでは、薬物治療を3カ月ごとに見直すよう定めています。
痛みや腫れのない臨床的寛解を達成し、その状態が維持されれば、関節が壊れることもなく、日常生活に支障を来すこともありません。すなわち、構造的寛解や機能的寛解も達成できるのです。
2-4 関節リウマチの治療の中での数値目標って?
臨床的寛解を目指して治療を行う上では、治療目標となる数値を設定し、その数値目標に向かって治療を続けていきます。数値目標を設定する手掛かりとなるのが「疾患活動性」、つまり病気の勢いがどのくらいあるのか、ということです。この疾患活動性についての情報を患者と医師が共有しておくことが、治療を決めていく上でとても大切です。患者が医師に伝えるべき情報は主に「どこが痛むのか」「どのくらい痛むのか」「どんな動作が難しいのか」の3点です。
疾患活動性を計る物差しを「総合的疾患活動性指標」といい、主に「DAS28(ダス28)」が用いられています。疾患活動性の数値は、「医師の診察」、「患者自身の評価」、「血液検査」のデータを計算式にあてはめて算出します。医師はDAS28の数値や身体機能の評価、画像検査の評価なども含めて、病気の状態や治療の効果が見られるか、などを判断します。
DAS28の定義と疾患活動性の程度
2-5関節リウマチの治療の中で必要な検査はどんなもの?
DAS28の数値を算出するために必要となる「医師による関節の診察(圧痛関節数と腫脹関節数)」「患者自身の自覚症状(VAS)」「血液検査」に加えて、日常生活の動作に支障があるかどうかを調べる「HAQ-DI」というアンケート、関節の破壊を調べるための「画像検査」などがあります。こうした検査結果を総合的に判断しながら治療を進めていきます。
圧痛関節数と腫脹関節数
押したときに痛む関節の数と腫れている関節の数を調べます。診察の時に関節に触れて確認します。上半身を中心とした28関節を調べるのが一般的です。
VAS(Visual Analogue Scale、「バス」「バススケール」と呼ばれます)
痛みがどれくらいかを表すのは難しいのですが、患者自身が感じている痛みの状態を知る手段として使われています。病気による痛みについて、「痛みが全くない」から「最大の痛み」までの中で当てはまると思う位置を示します。
HAQ-DI(Health Assessment Questionnaire-Disability Index、「健康評価質問表による機能障害の指数」という意味で、「ハック」「ハック質問票」などと呼ばれています
身体活動(日常生活で行う運動・動作)にどのくらい支障があるのかを調べるアンケートです。診察日とその前日の状態を基に記します。各カテゴリーでの最高点の平均が最終的なスコアとなります(0〜3点)。0.5点未満を「機能的寛解」と定義します。
簡単にできる | なんとかできる | 人に手伝ってもらえばできる | 全然できない | ||
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着衣と身支度 | |||||
服を着る(靴ひもやボタンかけも含めて) | |||||
髪を洗う | |||||
起立 | |||||
肘掛けのない椅子から立ち上がる | |||||
就寝、起床の寝起きができる | |||||
食事 | |||||
箸で食べ物をつかむ | |||||
飲み物のいっぱい入ったコップを口元に運ぶ | |||||
缶ジュースのふたや牛乳パックの口を開ける | |||||
歩行 | |||||
戸外の平地を歩く | |||||
階段を5段登る | |||||
衛生 | |||||
全身を洗い、タオルでふく | |||||
浴槽に入る | |||||
トイレに座り、立ち上がる | |||||
動作 | |||||
棚の上の2kgくらいの物に手を伸ばして下ろす | |||||
前かがみになって床の上のものを拾い上げる | |||||
握力 | |||||
自動車のドアを開ける | |||||
瓶のふたを回して開ける | |||||
水道の蛇口の開け閉め | |||||
活動 | |||||
用事や買い物に出かける | |||||
自動車の乗り降り | |||||
洗濯や掃除などの家事 |
血液検査
血液検査では、主に「炎症反応がどのくらいか」「関節リウマチの自己抗体が出ているか」の目安となる項目を調べます。どの検査項目もそれ一つで決め手になるものではありません。関節リウマチの治療効果は、さまざまな検査項目を基に総合的に判断します。他にも、「副作用や合併症が出ていないか」をチェックするために、一般的な血液検査項目(白血球数、赤血球数、血小板数や、肝機能の指標であるAST、ALT、腎機能の指標である血清クレアチニン値)についても調べます。
画像検査
関節の変化を調べる検査です。X(エックス)線検査が一般的ですが、超音波検査や核磁気共鳴画像法(MRI)検査が行われることもあります。
2-6どんな治療を始めるの?
発症から半年以内の早期の場合には、関節の破壊が速く進むタイプである可能性を示す「予後不良因子」(リウマトイド因子などの自己抗体が陽性、炎症反応を示すCRP値が高い、X線検査で骨の表面が削れて見える「骨びらん」がある...など)の有無、疾患活動性がどれくらいかによって、治療方針はおおむね次のようになります。
- 予後不良因子がない場合、予後不良因子はあっても疾患活動性が低い(DAS28≦3.2)場合
- ... サラゾスルファピリジン(商品名アザルフィジンほか)やブシラミン(商品名リマチルほか)など従来の抗リウマチ薬1つで治療を開始
- 予後不良因子があり、疾患活動性が中等度(DAS28≦5.1)の場合
- ... メトトレキサート(MTX)による治療を開始
- 予後不良因子があり、疾患活動性が高い(DAS28>5.1)場合
- ... メトトレキサート(MTX)に早期から生物学的製剤(TNF阻害薬)または他の抗リウマチ薬を組み合わせて治療
発症から半年以上経過している場合や、「骨びらん」があるなど関節リウマチの診断が確定的である場合の治療方針は、およそ次のようになります。
これまでは、痛みを取るための鎮痛薬(NSAID)や、炎症を抑えるステロイド薬、従来の抗リウマチ薬を段階的に組み合わせていく治療が主流で、関節が壊れるのを防ぐほどの治療効果がありませんでした。しかし、発症早期からMTXを中心とした治療を開始することで、寛解を目標にした治療ができるようになったのです。
慶應義塾大学病院リウマチ内科では、MTXを中心に治療を開始しています。従来の抗リウマチ薬やステロイド薬は、MTXが使えない場合や、十分な効果が得られない場合に使うことがありますが、使う頻度は年々減っています。
実際には、患者が持つさまざまな要因を総合的に判断しながら治療を進めていきますので、必ずしもこのような流れになるとは限りません。