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厳罰化で本当に防げるのか、てんかん患者の交通事故

 2013年05月16日 18:00

 重大な事故が相次いだことから、てんかんや認知症などの運転に支障を来す可能性のある病気を持つ人について、免許の不正取得を防止する道路交通法の改正案が今国会で審議されている。また、厳罰化を盛り込んだ刑法の新法案も、今国会での成立が見込まれている。世間の声に押される形で法改正の動きが加速しているが、専門家は厳罰化による事故防止の効果を疑問視しているようだ。日本てんかん学会と日本てんかん協会は5月11日、東京都内で緊急シンポジウムを開催。国立精神・神経医療研究センター病院(東京都)てんかんセンターの大槻泰介センター長は、事故を減らす鍵は医師への病状の正確な申告などであり、発作を抑制する良質な医療の提供なしには、患者からの正確な申告は得られにくいとした(関連記事)。

薬で発作抑えられれば一般人と変わりない

 2011年に栃木県鹿沼市で起きた児童6人がクレーン車にはねられて死亡した事故は、刑法の危険運転致死罪(最高刑・懲役20年)の適用を望む遺族側の願いもむなしく、自動車運転過失致死罪(同7年)が適用された。そこで遺族は、不正取得ができない免許制度と、人身事故を起こした際の厳罰化を求めた。

 道交法では、2002年から「統合失調症、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、そううつ病、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、その他精神障害(急性一過性精神病性障害、持続性妄想性障害等)、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作等)、認知症」について、「免許の拒否、保留、取消しまたは停止の対象」になり得るとされている。しかし、これらの病気を隠して免許を取得しても罰則はない。

 今国会で審議中の道交法改正案では、不正取得について「一年以下の懲役または三十万円以下の罰金」が新設されているほか、医師が患者の情報を任意で公安委員会に届け出る制度が盛り込まれている。一方、厳罰化については刑法から危険運転致死傷罪を切り離して新法を制定する予定で、飲酒や薬物、病気の影響で負傷事故を起こした場合の罰則は懲役12年以下、死亡事故では同15年が上限。現在、衆議院法務委員会に付託されている。

 日本てんかん学会の兼子直・理事長(弘前大学大学院神経精神医学教授)は「厳罰を設けることで疾患を持った運転者による事故は減るのか、という基本的な疑問が残る」と指摘。薬物治療でてんかん発作が抑えられていれば、一般の運転者と何ら変わりない。しかし、交通が整備されていない地方では、自動車がなければ治療の機会が阻まれるという問題を抱えている。交通サービスなどの環境整備を含め、「多方面からこの問題を考えていかないと、交通事故は減らないのではないか」と、兼子理事長は疑問を呈した。

発作の申告なければ治療や運転指導に影響

 全てのてんかん患者が免許の取得・更新を制限されているわけではなく、重要となるのが医師の診断。患者の申告から病状を判断するのだが、運転できないと生活が破綻してしまう患者の場合、医師に正確な病状を話さなくなる可能性がある。

 大槻センター長は、発作のリスクのある患者を運転させないようにするのは当然とした上で、運転できない患者を支援する制度がないと、厳罰化で逆に重大事故を増やしてしまう可能性を指摘。「もし、正確な病状を話してもらえなくなったら、治療や自動車の運転をやめるよう指導ができなくなる。先の重大事故の例から、患者の正確な病状申告なしに事故を防ぐことはできないという教訓を認識すべきだ」と述べた。

 発作があっても運転せざるを得ない状況にある患者については、これまで「病気の申告」=「生活の破綻」という構図があったが、病気による事故を防止するにはこれを改め、免許の一時停止を行うだけでなく、病状が回復するまでの生活を支援するなどの仕組みをつくっていくことが必要であるとして、法案の慎重な見直しを促した。

 日本てんかん協会会員で患者の今野こずえ氏は「私たちは大人も子供も、病気や障害があってもなくても、同じ社会で同じルールの下で生活している。患者は病気であることをしっかりと受け止め、責任ある行動を取らないといけない。しかし、てんかんに対する正しい認識も必要。誰にとっても質の良い環境や状況をみんなで作っていきたい思いでいっぱいだ」と述べた。

(編集部)

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