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減塩の推奨に根拠なし? 米国で論争勃発

 2013年05月21日 12:00

 健康的な生活を送るため、世界的に減塩の機運が高まっている。米国では1日当たり塩分摂取量は5.8グラム(ナトリウムで2,300ミリグラム)未満、高血圧患者などでは3.8グラム(同1,500ミリグラム)未満が推奨されているが、米国医学研究所(IOM)は5月14日、この推奨量にエビデンス(科学的根拠となる研究結果)はないとする見解を発表した。これに対し、米国心臓協会(AHA)は即日反論。減塩の重要性をあらためて強調している。

減塩で心臓病などの転帰不良か

 米国の食事摂取基準では、14~50歳は塩分摂取量を食塩換算で1日5.8グラム未満、51歳以上、黒人、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病がある場合は同3.8グラム未満と推奨している。しかし、米国人の平均塩分摂取量は1日9グラム程度。日本を含む世界各国と同様、推奨量と実際とが大きくかけ離れている。

 厳し過ぎる減塩については、血液中の脂質やインスリン抵抗性(インスリンに対する反応)に悪影響をもたらし、その結果、心臓病や脳卒中のリスクを高めるのではないかと懸念する声があるという。

 そこで、IOMの専門委員会は塩分摂取と健康に関する最近の研究を評価。「塩分摂取量の測定法による質的な限界がある」「症例数が少ない」といった制約があるとしながらも、次のように結論付けた。

  • 塩分を多く摂取することは心臓病リスクの上昇と関係している。これは塩分の血圧への影響を示すこれまでの研究結果とも一致する。
  • 1日5.8グラム未満で心臓病や脳卒中、死亡が増えた、または減ったと結論付けるために研究の質にばらつきがあり、研究の数も不十分。
  • 中等~重度の心不全患者で積極的な治療を受けている人では、塩分摂取量が低いと転帰(病気の見通しと結果)が悪くなる恐れがあることがエビデンスで示されている。
  • 糖尿病、腎臓病、心臓病、高血圧などの患者、51歳以上、黒人といった1日3.8グラム未満が推奨されている集団の健康と減塩との関連を調べたエビデンスは限られている。
  • 幾つかの研究は、減塩(1日3.8~5.8グラム程度)が糖尿病、腎臓病、心臓病の転帰を悪くさせる可能性が示されており、一般人口より低い推奨量を設定するための有力なエビデンスはない。つまり、糖尿病や腎臓病、心臓病の患者に1日3.7グラム未満を推奨することを支持しない。
  • 減塩と健康の関係を説明するためには、さらなる研究が必要。

 この結果に関して、専門医委員会のBrian Strom委員長(米ペンシルベニア大学医学部教授)は「最近の研究から、ナトリウムの摂取は血圧だけでない経路を通じて心臓病のリスクに影響することが分かっている。これらの研究は、血圧への作用を見るだけでは、健康への根本的な影響を確定できないことを明らかにしている。食事の変化はただ一つのミネラルを変えることより複雑だ。これらの経路を探る、さらなる研究が求められる」と語っている。

AHAは減塩による高血圧抑制を強調

 これに対してAHAは、現在の塩分摂取推奨量は細心の注意を払って行った科学的研究の評価に基づくものとした上で、真っ向から反論している。

 減塩に効果がない、あるいは心臓病や死亡を増やす可能性を示した研究の多くは、一般人口ではなく健康に問題を抱える者についてであり、これらはさまざまなレベルの塩分摂取と心臓病に対する影響を調べるために設定されたものではないことなどを指摘した。

 心筋梗塞と脳卒中の35%、心不全の49%、死亡の24%は高血圧による。AHAが行った最近の研究評価は、高血圧がない患者で、塩分摂取を1日3.8グラム未満に抑えることにより、加齢とともに起こる血圧の上昇が顕著に抑制され、健康的な効果が得られるだろうと結論付けている。

 また、過度の塩分摂取は、血圧への影響とは独立して心臓、腎臓、血管にも悪影響を及ぼすとし、減塩の重要性をあらためて強調した。

 なお、世界保健機関(WHO)の塩分摂取推奨量は1日5グラム未満。わが国では男性9グラム未満、女性7.5グラム未満としているが、日本高血圧学会は『高血圧治療ガイドライン2009』で6グラム未満と設定。さらに同学会は「より少ない食塩摂取量が理想」とし、1日3.8グラムまで安全性のエビデンスがあるとしている。

(編集部)

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