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人類の知能は低下している? 欧米人のIQが100年で後退

 2013年06月13日 17:32

 今日の人類の繁栄が、われわれのもつ知性によるところが大きいことは、誰も疑う余地はないだろう。そして、この知性はこの先も、未来永劫(えいごう)、人類のさらなる繁栄に寄与していくものと多くの人が漠然と信じている。しかし、スウェーデン・ウメオ大学社会科学部のMichael A. Woodley氏(心理学)らが、5月7日発行の国際心理学誌「Intelligence」(電子版)に発表した論文によると、この100年間で欧米人のIQ(知能指数)は、確実に低下しているのだという。立派な羽根を持っていても飛べなくなった鳥がいるように、立派な脳を持っていても考えられなくなった人類、という未来だってあり得ないわけじゃない。

ビクトリア朝が絶頂期か

 今から100年前の欧州といえば、すでに勢いづいていた産業革命によって、20世紀の大衆社会がまさに生み出されようとしていた時代であり、多くの発明・発見が人々の生活に劇的な変化をもたらそうとしていた。大英帝国が最盛期を迎えていたビクトリア朝の時代だ。科学的発見や技術革新の数、天才と呼ばれる科学者の数などの対人口比も際立っていた。

 しかし、その後の100年間はどうだろう。核、遺伝子組み換え、コンピューターなどいくつかの大きな革新はあったにせよ、科学の勢いは総じて減少に転じていると考える向きも多い。果たして人間はバカになっているのか。しかし、100年前の人々と現代人の知能を直接比較することはできない。当時と今とでは教育、衛生、栄養など環境が知能に及ぼす影響があまりに違い過ぎるからだ。

100年でIQが14ポイント低下

 そこでWoodley氏らが用いたのが、「反応時間」と呼ばれる指標だ。これは、感覚刺激(主に視覚刺激)に対する反応時間であり、進化論で有名なチャールズ・ダーウィンのいとこに当たる英国の人類学者、フランシス・ゴルトンによって1883年に知能との相関が提唱されて以降、環境の影響から独立した、純粋に生物的、遺伝的IQの指標として広く用いられている。Woodley氏らは、1884~2004年に欧米で行われた、14件の反応時間を測定した研究を基に、ここ100年間の欧米人のIQの変化を導き出した。

 その結果、1889年に平均194ミリ秒だった反応時間が2004年では平均275ミリ秒にまで長くなっていることが分かった。これはIQに換算すると、10年で1.23ポイント、100年で14ポイントもの低下だという。

 一方でこの結果は、第二次世界大戦後、世界的に人のIQが10年で平均3ポイント上がったとする、いわゆる「フリン効果(Flynn Effect)」と矛盾する。さらに最近では、南アフリカや韓国、サウジアラビアでも、同様の知能の向上が報告されている。

 これについてWoodley氏は、通常のIQテストによって得られたこれらの結果は、単純に生活環境の改善によってもたらされた見かけだけの知能の向上であり、環境の影響を排除し、純粋に遺伝的に継承される能力としての知能を測定した自身の方法と結果が異なるのは当然としている。

原因は「知能高い女性が出産しなくなったため」?

 では、この純粋に遺伝的な要因によってもたらされたと考えられる知能低下の原因は、何だったのだろう。Woodley氏は、これまでの研究によって指摘されていた、現代女性のIQと出産率が反比例していることに着目し、現代では、以前ほど知能の高い女性が子供を生まなくなったからではないかとしている。

 女性の社会進出が人類の知能低下を招いたと捉えられかねないこの発言の真偽はともかくとして、人類の知能低下が真実だとすれば、その本当の原因を明らかにすることが急務となるだろう。「知らないうちに飛べなくなっていた」では済まされないのだ。

(サイエンスライター・神無 久)

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