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【詳報】STAP騒動,理研・笹井氏の弁明

 2014年04月18日 10:30

 STAP細胞に関する騒動の中心人物,小保方晴子氏の直近の上司だった理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹・副センター長による記者会見が4月16日、東京都内で開かれた。会見では,論文の取り下げに同意しつつ、STAP現象の存在は信じているという、一見して矛盾しているような考えを示してきた笹井氏の真意が明かされたことに加え,第三者による再現実験がうまくいかない理由についても現時点での見解が述べられた。詳細を紹介する。

STAP現象ないと説明できない3つの事実

 笹井氏はこれまで、理研の論文取り下げ勧告については、たとえ単純な過失だったにせよ,論文掲載図表の取り違え,改ざんといった不備により論文への信頼が著しく損なわれたという理由で同意。一方、STAP現象(外部刺激によって一度分化した細胞が初期化されること)については,その存在を否定し切れないという立場を取っていた。

 その根拠として笹井氏は、STAP現象が存在しないと考えると、説明ができない3つの事実があるとした。さらに、これら3つの事実は、「一個人の人為的な操作」が特に困難な、確実性の高いものを選んだという。

事実1:無色から緑色への変化

 1つ目の事実は、論文の共著者として主に論文の実質的な構成執筆にだけ関与したと釈明した笹井氏が唯一、実験指導者として小保方氏を直接指導したと述べたライブイメージング実験の結果に関するものだった。

 この実験は、細胞が無色から緑色へと変化するのを、培養しながらリアルタイムで観察できるというもの。もし、何らかの原因で緑色の細胞が最初から混ざっていたら、それは最初から緑色であり、無色からの変化は観察されないことになる。

 実際の実験結果では、リンパ球細胞が無色から緑色に変化する様子が確かに観察された。さらに、観察中のタイムラプス(コマ撮り)撮影は自動で行われるため、人為的な操作は実質上不可能という。

 また、酸刺激で死んでしまった細胞も緑色を発する場合があり、それと見間違えたのではないかという指摘に対しては、死細胞と生細胞の蛍光を区別して検出できたとしている。

事実2:ES細胞などとは全く異なる性質

 2つ目の事実は、STAP細胞の特徴的な性質にあるという。STAP細胞は、元となったリンパ球細胞や、混入が疑われているES細胞(胚性幹細胞)よりもサイズが小さく、遺伝子の発現パターンもES細胞や他の幹細胞とは一致しなかった。

 さらに、STAP細胞はほとんど自力で増えることができず、分散培養が不可能という特徴も、増殖能が高くて分散培養が可能なES細胞とは異なる。このような、他に類を見ない特徴を持った細胞が、酸処理によって出現したことは確かなことだというわけだ。

事実3:ES細胞ではできないキメラ

 3つ目の事実は、マウス胚盤胞(受精卵と着床の間の段階)にSTAP細胞を注入した実験(キメラ作製実験)の結果にあるという。この実験では、注入されたSTAP細胞が、赤ちゃん以外に胎盤、内胚葉の形成に影響した。これは、ES細胞や栄養芽幹細胞を注入しても起こらない現象だというのだ。

 また、ES細胞とは異なり、STAP細胞は分散した細胞ではなく細胞の塊として注入する必要があるため、仮にES細胞などがSTAP細胞に混じっているとこの細胞塊ができず、キメラ(異なる遺伝情報を持つ細胞が同居する個体)はできない。

 これらの事実は小保方氏だけでなく、一連の実験に関する実験指導者で、いわばその道のプロである若山照彦氏(山梨大学生命環境学部教授)も確認しており、確実性が高い。

再現の難しさは作製工程の複雑さにあり

 STAP現象の再現については、非公式な事例の他には、いまだに成功例がないとされている。これに関して笹井氏は、その理由を「STAP現象の複雑さにある」と説明した。刺激(酸処理)からSTAP細胞出現までの全工程(7日間)は、大きく4つのステップに分けることができるという。この4ステップを意識して、再現実験することが重要だというのだ()。

 第1ステップ(1~2日目)では、酸処理によって強いストレスを受けた細胞が、まだ死に始めない「サバイバル」ステップと呼ばれる段階。第2ステップ(2~3日目)では、大半の細胞(約8割)がゆっくりと細胞死を起こす一方で、残り2割の細胞は死なずに小型化し、多能性マーカー(Oct4-GFP)を弱く発現するようになる。

 第3ステップ(3~5日目)では、Oct4-GFPを発現している細胞が集まり、細胞の塊をつくる。さらに、この細胞塊はシャーレの中を活発に移動する。第4ステップ(5~7日目)で、細胞塊はさらに大きくなり、Oct4-GFPやその他の多能性マーカーの発現も強くなる。

 第1ステップでの刺激が強過ぎると、第2ステップで8割以上の細胞が死ぬことになり、逆に弱過ぎると2割以上の細胞が生き残るが初期化されない(=Oct4-GFPは発現してこない)。さらに、第2ステップでOct4-GFPが弱く発現しても、それが弱いままの細胞塊では多能性を発揮しない。これは、生後3週齢以降のマウス細胞を使った場合にも起こりやすいという。

 確かに、多くの追試者たちは、この刺激の強さの最適化と、強いOct4-GFPの発現を誘導する細胞塊の形成にあまり注意を払ってこなかったのかもしれないが、だったらどうすればよいのかという模範解答は、それを論文中で明記できなかった以上、論文著者たちですら、いまだ完全には理解していないのだろう。

笹井氏への責任追及には限界あり

 笹井氏によると、同氏がこのSTAP現象プロジェクトに参加したのは、論文の再投稿2カ月前。その役割はその経験を買われて、主に再投稿論文の受理へ向けての戦略的な論文の構成、執筆指導者だった。そのため、プロジェクトの進行自体には事実上、加わっていなかったとし、当初は共著者になることすらためらっていたという。

 ところが、論文の責任著者であるチャールズ・バカンティ氏(米ハーバード大教授)からの強い要望や、もう1本の論文の責任著者である若山氏からも、査読者からの専門的な指摘に対応するためぜひにと要望され、最終的にそれぞれの論文の共著者として名を連ねたとしている。

 このような経緯から、笹井氏が実際に生データに触れる機会があったのは、自身が直接指導したライブイメージング実験のみだったといえる。その他のデータについてはすでに解析を終え、論文用の図表として作製されたものだけを見て、論文執筆を行ったにすぎない。

 したがって、当該論文に寄せられる疑惑のうち、理研の調査委員会が疑義として取り上げた6件以外の疑惑についても、笹井氏に対し全面的な説明責任を求めるには限界があるのも確かだ。これが、共著者の責任範囲が複雑に入り組んだ、昨今の巨大共同研究の盲点なのかもしれない。

 しかし、理研に対しては、今後も彼らが行うとしているSTAP現象のゼロからの検証とは別に、取り下げ勧告が出された論文でのSTAP細胞の真偽解明を引き続き行うよう強く求め、その責任を追及していく必要があるだろう。そのためにはぜひ、若山氏の会見も実現できるよう強く要望したい。

(サイエンスライター・神無 久)

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