メニューを開く 検索

トップ »  疾患・健康ニュース「あなたの健康百科」 »  初の顔面移植から9年、これまでの28件を振り返る

疾患・健康ニュース「あなたの健康百科」一覧

初の顔面移植から9年、これまでの28件を振り返る

 2014年06月19日 10:30

 2005年にフランスで初症例が報告されて以来、これまでに世界で28人(男性22人、女性6人)に実施された顔面移植。事故などで顔の一部または全部を失った人へ、死亡した人の顔を移植するものだが、患者の命を救うのではなく患者の人生を変えるという特殊な移植のため、世界中で倫理的な議論が絶えない。米メリーランド大学医療センターのSaami Khalifian氏らは、顔面移植の9年を振り返り、「移植の安全性は高まっているが、レシピエント(移植を受ける人)は、顔面移植に対する厳格な"心構え"を持つことが求められている」と、英医学誌「Lancet」(電子版)で指摘した。

免疫抑制薬を生涯飲み続ける

 2005年に世界で初めて顔面移植を受けたのは、フランスのIsabelle Dinoireさん。彼女は38歳のときに飼い犬のラブラドールレトリバーにかまれて鼻、唇、顎を失った。15時間にわたる手術の末、顔面移植に成功。英BBCの報道によると、45歳となった取材当時(2012年)も元気に暮らしており、ドナー(提供者)とともに生き、ドナーが自分の人生を支えてくれていると感じているようだ。

 顔面移植の倫理をめぐる議論でしばしば指摘される点の一つは、Dinoireさんもそうだったように、他に健康上の問題のない患者が移植後に大量の免疫抑制薬を生涯服用しなければならなくなるということ。他の臓器移植と同じく、移植した部分への拒絶反応や移植した部分がレシピエントを攻撃すること(移植片対宿主病)を防ぐためだ。さらに、手術には卓越した技術が必要で、危険性と利点のバランスも十分には明らかになっていない。

 そのためKhalifian氏は、移植を受ける人は、生涯にわたって免疫抑制薬を服用し続けることで感染症やがんなどにかかりやすくなる点を理解し、手術後の集中的なリハビリなどに対するやる気度が高く、難しい状態になった場合に社会的支援が受けられる状況にあるなど、数多くの条件をクリアしていなければならないと説明する。

慢性拒絶反応はゼロ

 感染症と急性拒絶反応は移植後1年以内に全ての症例で起きたが、慢性拒絶反応、移植片対宿主病は報告されていない。慢性拒絶反応がゼロの理由として、急性拒絶反応を軽い段階で対処したことによるのではないかという。しかし、最初の症例でもまだ9年しかたっていないため、長期的な経過については不明で、患者には免疫抑制の治療を厳格に守り、けがに注意すべきとしている。

 顔面の感覚の一部は数週間程度で回復し始めるが、動かせるようになるには6~8カ月かかることが分かっている。また、症例の多くでかみ合わせの不具合が認められ、手術が必要だったという。

 Khalifian氏は「技術は日々進歩しており、慢性拒絶反応は報告されていない。今後は手術だけで30万ドル(約3,000万円)かかる顔面移植が健康保険の適用となるよう、働きかけていかなければならない」と述べている。

4人が職場や学校に復帰

 今回の共同研究者で、2012年にこれまでで最も広範囲な顔面移植をメリーランド大学医療センターで執刀したEduardo D. Rodriguez氏は、現在、教授を務める米ニューヨーク大学医療センターニュースリリースで「顔面移植を受けた28人中25人が現在も生存しており、4人は職場や学校に復帰できた。死亡した3人は顔面移植との直接的関連が認められない感染症やがんによるものだった」と説明。「他人の顔になることで解離性同一性障害(多重人格)の恐れが指摘されていたが、その徴候は認められていない」と述べている。

 さらに、Rodriguez氏は「顔面移植の依然として黎明期にある。従来の手術では手に負えない重度かつ広範囲の顔面外傷で、顔面移植を必要とする患者がいる限り、移植術を改良し続けることがわれわれの義務」とコメント。次の顔面移植を2014年中にも実施する予定としている。

(編集部)

ワンクリックアンケート

円安水準を更新。円安で何を思う?

トップ »  疾患・健康ニュース「あなたの健康百科」 »  初の顔面移植から9年、これまでの28件を振り返る