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スイスへの"自殺ツーリズム"はいくらかかる?

 2014年09月05日 10:30

 耐え難い苦痛からの解放や尊厳ある死を迎えるため、自殺幇助(ほうじょ)による安楽死が認められているスイスへの渡航者が4年間で増えているとの調査結果が、8月21日発行の英医学誌「Journal of Medical Ethics」(電子版)に報告され、世界に衝撃を走らせた。この"自殺ツーリズム"を利用するにはどの程度の費用がかかり、どういった条件があるのか―。同論文から、自殺幇助による安楽死を支援する公認6団体の実情などを探った。

1州だけで5年間に950人が利用

 ほとんどの国が安楽死を法的に禁じているが、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、米国の4州では認められており、スイスでは安楽死自体は認められていないものの、第三者が処方した薬を患者が使用して自殺するのは合法となっている。2002年に安楽死の合法化に踏み切ったオランダでは、安楽死数が03年の約1,600人から12年には約4,200人に増加。12年に合法化したベルギーでは13年に1,800人以上が安楽死を選ぶなど、世界的な高齢化が進む中で、需要は高まっているようだ。

 さらに今回の調査結果で、規制の厳しい国からスイスへの"自殺旅行者"が増加していることが示唆された。

 スイスには自殺幇助による安楽死を支援する公認団体が6つあり、そのうち4団体が他国からの利用者を受け入れている。スイス・チューリヒ大学のSaskia Gauthier氏らが報告した今回の調査結果によると、2008~12年の5年間にチューリヒ州で自殺幇助による安楽死を利用したのは950人。過去の研究では1990~00年の11年間で331人、2001~04年の4年間で421人となっており、22年間で増えていることが分かる。

外国からの利用者は全体の6割

 この増加の主な要因は外国からの"自殺旅行者"だ。計31カ国に上る外国からの利用は全体の64%(611人)で、年度ごとにみると08年が123人、09年が86人、10年が90人、11年が140人、12年が172人だった。統計の期間が違うので単純に比較できないが、2001~04年と比べて人数(255人)だけでなく全体に占める割合(61%)も増えている。

 外国からの利用者のうちドイツ(268人)と英国(126人)からが3分の2を占め、3位のフランス(66人)と4位のイタリア(44人)は、2009~12年の年間利用者の増加が顕著になっている(それぞれ7人から19人、4人から22人に増加)。

 なお、オランダや米オレゴン州などでは条件付きの自殺幇助を規定した法律があるが、1941年に自殺幇助を認めたスイスでは、「利己的な動機により他人を自殺に追い込んだ者」を罰する刑法条文があるのみで、自殺幇助の条件を明文化した法律はない。これについて、欧州人権裁判所がスイス政府に致死薬の処方に関する法の整備を指導したが、数度にわたる国会審議で「利益がない」として否決され、現在に至っている。

 また、外国から利用者を受け入れることの是非や、支援団体の監視に関する法案が地方レベルで審議されたこともあったが、いずれも否決されている。

最安は年会費4,000円で実施費ゼロ

 自殺幇助による安楽死を支援しているスイス6団体の費用をみると、年会費は無料~5万7,000円、安楽死の実施費も無料~120万円と幅広い。最安は「Exit A.D.M.D.」という団体で、年会費は35スイスフラン(約4,000円)、実施費は無料となっている。年会費50スイスフラン(約5,700円)で実施費が無条件で無料の「SPIRIT」は、入会条件に国籍や居住地の制限を設けていない。

 「Dignitas」も国籍・居住地は不問で、外国からの"自殺旅行者"の大多数がこの団体を利用していた。ただし、年会費が80~500スイスフラン(約9,100~5万7,000円)な上に、実施費も9,000スイスフラン(約103万円)とかなり高額だ。

 また、自殺幇助による安楽死後には法的調査が必要で、その費用は別途3,000スイスフラン(約34万円)程度かかるという。

利用理由の最多は神経疾患、方法は麻酔薬

 今回の調査では、利用者は平均年齢69歳(23~97歳)で59%が女性、自殺幇助による安楽死を希望した理由は麻痺(まひ)やパーキンソン病、多発性硬化症などの神経疾患が47%で最も多く、がんも37%を占めた。なお、利用者の3割が2つ以上の病気を申告している。

 方法は、2008年にヘリウム吸入が4件あったが、苦痛を伴う可能性がメディアで報道され(09年の利用者減にも関連)、以後は全員に麻酔薬のペントバルビタールが使われていた。

 利用数上位2カ国のドイツと英国では、国会で安楽死に関する議論が行われている。英オックスフォード大学のCharles Foster氏は「忌むべき作業を他国に行わせることは、非道徳と言わないまでも知的不快感を伴うという認識が一般に広まりつつある」と同誌の付随論評(電子版)で説明。緩和ケア研究の第一人者である英ロンドン・サウスバンク大学のAlison Twycross氏(看護学博士)は「法改正の検討の前に緩和ケアの改善と普及が必要」と、別の医学誌(「Evidence-Based Nursing」電子版)で指摘している。

(編集部)

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