エコノミークラス症候群の原因は？

　エコノミークラス症候群と呼ばれる静脈血栓塞栓症は、静脈の中でできた血栓（血の塊）が血流を詰らせる病気だ。血栓が肺まで流れていき、肺静脈を詰まらせる肺血栓塞栓症がよく知られている。肺血栓塞栓になると最悪の場合、死に至ることもあるが、原因の9割が脚の静脈にできる血栓（下肢深部静脈血栓）といわれている。

　市民公開講座では、血栓は運動不足や長時間同じ姿勢でいるだけでなく、喫煙や飲酒も要因になることを説明。さらに、がん患者は病巣から血栓ができやすく、特に大腸、膵臓（すいぞう）、卵巣など下半身のがんではリスクが高いことも紹介された。

　このほか、医療行為が要因となる「医原性」があり、長期間の入院や外科手術（特に脚の整形外科手術の経験者）、低用量ピルの常用などが挙げられるという。

仮設住宅暮らしでは脳梗塞も増加か

　血栓ができやすい状況は飛行機に乗っているときや入院中だけでなく、同じようにあまり動かず水分補給も十分でない避難生活も当てはまるだろう。後半のパネルディスカッションでは、大槌町の仮設住宅への巡回検診の現場と会場をライブ中継。仮設住宅での生活によって、多くの人の脚に血栓ができている現状が紹介された。

　脚に血栓ができるような体の状況は、脳梗塞や動脈硬化を引き起こしやすい状態でもあり、今後も健康被害が続くことが懸念される。

　現地で超音波による血栓の検査を行っている新潟大学大学院医歯学総合研究科の榛沢和彦講師は「避難所、仮設住宅などでできた血栓は長く消えずに残り、さらに大きくなる恐れもある。（2004年の）新潟中越地震では脳梗塞の発症率も上がった。引き続き、定期的な検診が必要」と長期的な支援の必要性を訴えた（関連記事：広島土砂災害の避難所に段ボールベッドを―学会呼びかけ）。

　こうした状況について、パネリストの一人である石巻赤十字病院（宮城県）の植田信策医師（呼吸器外科）は「国の支援もなく、現地の医療体制は不十分なまま。活動性の保持（よく動くこと）、早期発見・治療のための医療体制を整える必要がある」と述べた。

　また、同じくパネリストの一人、浜松医療センター（静岡県）の小林隆夫院長は、実症例を挙げながら「低用量ピルを飲んでいる人は、そうでない人と比べて血が固まりやすい。まめな水分補給と運動を心がけて」とアドバイスした。

初期症状「ACHES」見逃さないで

　静脈血栓塞栓症を予防するには、定期的な検査のほか、（1）激しい腹痛、（2）激しい胸の痛み、息切れ、（3）激しい頭痛、（4）視野・視力障害、舌のもつれ、失神・痙攣（けいれん）、（5）ふくらはぎの痛み・むくみ―といった初期症状（英語の頭文字で「ACHES」と呼ばれる）を見逃さないことが重要となる。

　司会を務めた国立病院機構大阪医療センター外科の池田正孝医長は「静脈血栓症はさまざまな状況が重なって起きるもの。逆に言えば、そのどれか一つでも起こらないように気をつけていれば防げる。静脈血栓症をよく理解し、日頃から気をつけて」と話した。

　また、東日本大震災の避難所でボランティア活動を行った東北福祉大学の学生が、静脈血栓塞栓症を予防する体操を紹介。来場者だけでなく演者らも参加した。

来場者の声...「周囲にも伝えたい」

　静脈血栓塞栓症の発症率は、高齢になるほど高まり、男性よりも女性の方が1.5～2倍高いと報告されている。来場したのは50～70歳代が多く、血栓症は他人事ではない。

　埼玉県から来た60歳代の女性は「血栓は動脈硬化や脳梗塞のことだと思っていたので、今回は勉強になった。これからは気をつけていきたい」と話していた。また、神奈川県から訪れた70歳代の男性は「病院や施設などでも血栓症になる危険性があるのを知って驚いた。静脈血栓塞栓症について周囲の人にも伝えたい」と話した。

（土屋 季之）