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お酒との上手な付き合い方を

 2019年03月25日 06:00

 あまり知られてはいないが、実はアルコール依存症は肝臓への悪影響だけでなく、若年者の認知症、乳がんや食道がんなどの各リスクを上昇させる可能性が指摘されている1), 2),3)。日本には、アルコール依存症で治療中の人から、心身に自覚症状がなくても多量飲酒をしている危険状態の人まで含めると、およそ1,000万人が存在するという。原則として「断酒」を目指すアルコール依存症治療だが、筑波大学医学医療系地域総合診療医学准教授で、同大附属病院総合診療科の吉本尚氏が今年1月に開設した「飲酒量低減外来」では、必ずしも断酒にこだわらず、いわばお酒との上手な付き合い方を目指すのが特徴のようだ。吉本氏を訪ね、話しを聞いた。

患者の"受診ハードル"を下げる試み

 アルコール依存症は本来、精神科で診療する病気の1つだ。しかし、精神科を受診することに抵抗感を持つ人はまだまだ多い上、アルコール依存症に対する偏見や差別もあることから、受診に至る人はそう多くはない。また、アルコール依存症と診断されれば、治療目標は原則、断酒になるため、治療を中断してしまう人もいる。さらに、依存症の手前にいる多量飲酒者まで含めると、およそ1,000万人がアルコール問題を抱えているという(図1)。

図1 アルコール問題を抱える人の推計

(厚生労働省「みんなのメンタルヘルス 総合サイト」および吉本氏提供資料を基に編集部作成)

 そこで吉本氏は、北茨城市民病院附属家庭医療センター内に2019年1月、飲酒量低減外来を開設した。「自分にはアルコールの問題はない、と主張する人でも、健康診断は積極的に受けているもの。飲酒習慣について心配しながらも、精神科の受診に抵抗がある人は多い」と考え、同氏は精神科以外で全国初のアルコール問題の専門外来をスタートさせた。いわば、患者の受診に対するハードルを下げる目論見があったという。

断酒にこだわらず、個別の治療目標を設定

 飲酒量低減外来では、毎週木曜日の午前中に、完全予約制で診療を行っている。診療は保険適用の範囲内。初診は15〜20分、場合によっては30分ほどをかける。AUDITと呼ばれるアルコール問題のスクリーニング検査(図2)や血液検査などを実施し、飲酒量や生活習慣などを聞き取る。アルコール依存症が強く疑われる場合、専門医療機関を紹介するケースもある。開設後およそ1カ月が経過した3月中旬時点で、11人の患者が治療を受けている。

図2 AUDIT(アルコール使用障害スクリーニング検査)

現在の飲酒習慣が適切か、健康への被害や日常生活への影響が出るほど問題があるのか、AUDIT(The Alcohol Use Disorders Identification Test)というスクリーニングテストで、チェックしましょう。
※AUDITは、WHO(世界保健機関)の調査研究により作成された、アルコール依存症のスクリーニング(分類)テストです。

以下の1〜10までの質問で、最も近い回答にチェックしてください。

1.あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか?
2.飲酒するときは通常、純アルコール換算でどのくらいの量を飲みますか?
※純アルコール量が選択肢に当てはまらない場合は、近いものを選んでください。

《純アルコール量の目安》
日本酒1合=2ドリンク/ビール大びん1本=2.5ドリンク、ウイスキー水割りダブル1杯=2ドリンク、焼酎お湯割り1杯=1ドリンク、ワイン1杯=1.5ドリンク

3.1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか?
4.過去1年間に、飲み始めると止められなかったことがどのくらいの頻度でありましたか?
5.過去1年間に、普通だと行えることを飲酒をしていたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか
6.過去1年間に深酒の後、体調を整えるために朝、迎え酒をしなければならなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?
7.過去1年間に、飲酒後、罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか?
8.過去1年間に、飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?
9.飲酒のために、あなた自身がけがをしたり、あるいは他の誰かにけがを負わせたことがありますか?
10.肉親や親戚、友人、医師、あるいは他の健康管理に携わる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすように勧めたりしたことがありますか?

合計/40

非飲酒群です。
危険の少ない飲酒群です。
危険な飲酒群です。
アルコール依存症疑い群です。

〔世界保健機関(WHO)作成の"The Alcohol Use Disorders Identification Test(AUDIT)"を基に編集部作成〕

 実際の診療では、飲酒によるリスクを吉本氏が一方的に説明することはなく、個々の患者の生活習慣などに合わせ、本人の飲酒量低減に対するモチベーションを引き出すような治療目標を設定する。「たとえば毎日飲む人なら、『週1回は休肝日を設けてみませんか』と提案して、それが達成できたら次は休肝日を2日に増やすという感じで、各患者さんの適量を目指し無理のない目標を決めています。ご家族も、主治医である私自身も、患者さんが健康でいてくれることを望んでいるという気持ちを伝えます」と吉本氏。アルコール依存症の治療薬や、夜間の不安感を和らげるための気分安定薬や、眠りを助けるための睡眠薬などを処方するケースもあるが、面談とカウンセリングだけで対応するケースもある。

外来でのアルコール診療が当たり前になる日を見据えて

 諸外国、とりわけアメリカやヨーロッパの多くの社会は、飲酒に対して厳しい。アルコール飲料の自動販売機はなく、店で買う際には身分証の提示が求められる。公共の場で酔うことに対して、日本ほどの寛容さはない。それでも、吉本氏によると、「アルコール問題は、世界的にケアが不十分とされる精神科の病気の中でもワースト1位」という。

 吉本氏は「喫煙問題を振り返ると、今では禁煙外来が当たり前になり、社会におけるマナーやルールが重要視されていますが、ほんの10数年前はまだまだ喫煙が容認されていました。世界のアルコール問題への取り組みは喫煙問題と比べると10年ほど遅れて開始されていますので、私たちもこれから10数年先を見据えて取り組む必要があります」と説明。「少しでも多くの非専門家がアルコール問題を日常診療に取り入れ、社会全体でアルコール問題に対する見方が変わり、受診する人たちにとっても今よりハードルが下がるような環境が整ってほしいと願っています」と結んだ。

*筑波大学と北茨城市民病院が、2019年1月17日に同院附属家庭医療センター内に開設

1) Schwarzinger M, et al. Lancet Public Health 2018; 3: e124-e132.
2) Suzuki R, et al. Int J Cancer 2010; 127: 685-695.
3) Ishiguro S, et al. Cancer Lett 2009; 275: 240-246.

(あなたの健康百科編集部)

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