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口の中の菌が発がん物質をつくっている?

 2019年08月16日 06:00

 近ごろ、口腔細菌(口の中に生息している細菌)がさまざまな病気と関連していることが分かってきた。中でも、歯周病菌は早産や生活習慣病、大腸がんなどに関与するとの報告がある(関連記事参照)。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の横井彩氏、同科教授の森田学氏らの研究グループは、発がん性物質のアセトアルデヒド(ACH)と舌の表面に生息する細菌数の関連に注目。ACH濃度に影響を及ぼす細菌の特徴を解明したと、ブラジルの医学誌 J Appl Oral Sci2019; 27: e20180635)に報告した。

ACH濃度に影響を与える細菌の特定に挑戦

 ACHは口腔がん、食道がん、消化器がんの発症に関連することが指摘されている。また、口の中のACH濃度と舌表面に付着した汚れ(舌苔)の面積には関連があることも報告されている。

 舌苔のもとになっているのは、剝がれ落ちた粘膜細胞や細菌であることから、口腔細菌がACHを産生していると考えられる。そのため、ACHを産生する能力(産生能)が高い口腔細菌叢(さいきんそう:細菌の種類や構成)を持つ人では、アルコールを摂取すると細菌が分解してACHを産生することで発がんリスクが高まる可能性がある。

 そこで横井氏らは、「口の中のACH濃度は、舌表面に生息する特定の細菌と関連している」との仮説を立て、健康な成人を対象とした検討によりACH濃度に影響を与える細菌の特定を試みた。

歯科受診者39人を対象に検討

 対象は、岡山大学病院歯科を2014年10月~15年11月に受診した39人(男性12人、女性27人、年齢20~30歳)。

 測定前の①48時間は臭いの強い食物の摂取②24時間は香水の使用、喫煙③12時間はアルコール摂取−を控えるよう指示した上で、口の中のACH濃度を測定した。舌苔の状態は舌表面を覆っている面積により「0点(なし)、1点(3分の1未満)、2点(3分の2未満)、3点(3分の2以上)」で評価。細菌数は綿棒で舌表面の中央からサンプルを採取し、迅速微生物検出装置を用いて算出した。

ACH濃度が上昇すると細菌数が増加

 検討の結果、口の中の平均ACH濃度は146.5ppbで、舌苔の状態が0または1点の人の48.3ppbに対し、3点の人では215.4ppbと高かった。ACH濃度が上昇すると細菌数が増加するという正の相関が認められたが、年齢との相関は見られなかった。

 次に、ACH濃度が最高の6人(HG群)と最低の6人(LG群)で細菌叢の特性を比較した。HG群では、ACHの産生能が高い3種類の細菌(ゲメラ・サングイニス、ベイロネラ・パルブーラ、ナイセリア・フラベッセンス)の相対生存量がLG群より多く、対照的に関節炎の発症を抑制する細菌(プレボテラ・ヒスティコラ)と感染性心内膜炎の原因菌の一種(スプレプトコッカス・パラサングイニス)は少なかった。ナイセリア属はがんの前段階として知られる口腔扁平苔癬と関連するといわれており、ナイセリア・フラベッセンスはより高いACH産生能を持つため、口腔がんの発生原因となる可能性があるという。

 これらの結果を踏まえ、横井氏らは「口の中のACH濃度が高い人ほど舌表面の細菌数が多く、特にナイセリア・フラベッセンスなど特定の細菌が多く存在することを初めて明らかにした。ACH濃度と細菌数が有意な正の相関を示した点は、舌表面に生息する細菌がACHの産生源であることを示唆している」と指摘した上で、「われわれは以前の研究で、舌クリーニングにより舌表面の細菌数が減少し、ACH濃度が低下することを明らかにした(J Appl Oral Sci 2015; 23: 64-70)。舌クリーニングは口の中で産生されるACHを減らし、飲酒者の口腔がんリスクを減らす可能性がある」と考察。「今後は、がん患者や飲酒・喫煙者を対象に舌表面の細菌叢の特徴を解明し、がん予防対策につなげたい」と展望している。

(あなたの健康百科編集部)

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