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抗菌薬の頻用で炎症性腸疾患リスク上昇

2023年01月12日 17:25

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イメージ画像 © Adobe Stock ※画像はイメージです

 抗菌薬の頻用は炎症性腸疾患(IBD)リスクを上昇させ、特に40歳以上で顕著に高くなることが分かった。米・New York University Grossman School of MedicineのAdam S. Faye氏らは、デンマークの人口ベースのコホート研究で抗菌薬の使用とIBD罹患の関係を検討した結果を、Gut2023年1月9日オンライン版)に報告した。

610万4,245例が対象

 IBDは世界で約700万例が罹患しており、今後10年間にさらに増加すると予測されている。その背景には環境要因の関与が疑われており、若年者では抗菌薬とIBDの関連が報告されている。しかし、成人における抗菌薬の使用がIBD罹患に及ぼす影響は明らかでない。そこでFaye氏らは、デンマーク国民が対象のコホート研究を実施し、抗菌薬の使用とIBDリスクの関係を検討した。

 対象は2000年1月1日~18年12月31日に全国登録システムDanish Civil Registration System(CRS)に登録されたデンマーク国民のうち、10歳以上でIBD罹患歴がなく5年以上同国に居住している610万4,245例。CRSに紐付けられた全国処方薬登録システムDanish National Prescription Registerと全国患者登録システムDanish National Patient Registerから処方薬と入院、外来、救急外来のデータを収集、Poisson回帰モデルを用いて抗菌薬の用量、投与時期、クラス別にIBDの発生率比(IRR)を算出した。対象は、50.4%が女性で、555万1,441例(90.9%)が抗菌薬を少なくとも1回投与していた。

 8,711万2,328人・年の追跡期間中に5万2,898例が新規にIBDと診断された(潰瘍性大腸炎3万6,017例、クローン病1万6,881例)。

40歳以上でリスクが約50%上昇

 解析の結果、全ての年齢層において抗菌薬非投与群に対し投与群でIBDリスクが上昇しており、10~40歳で28%(IRR 1.28、95%CI 1.25~1.32)、40~60歳で48%(同1.48 、1.43~1.54)、60歳以上で47%(同1.47、1.42 ~1.53)高かった。

 抗菌薬非投与群に対し、投与群では潰瘍性大腸炎リスクが10~40歳で21%(IRR 1.21、95%CI 1.17~1.26)、40~60歳で44%(同1.44、1.38~1.50)、60歳以上で47%(同1.47、1.40 ~1.53)が高かった。同様にクローン病リスクもそれぞれ40%(同1.40 、1.33~1.47)、62%(同1.62、1.51~1.74)、51%(同1.51、1.40 ~1.63)高かった。

5回以上投与で最もリスク高い

 IBDリスクは抗菌薬の投与回数が増えるごとに上昇し、用量依存性の関係が認められた。抗菌薬1回投与例のIBDリスクは10~40歳で11%(IRR 1.11、95%CI 1.10~1.12)、40~60歳で15%(同1.15、1.14~1.16)、60歳以上で14%(同1.14、1.13~1.15)高まり、5回以上投与例ではそれぞれ69%(同1.69、1.61~1.76)、112%(同2.12、2.01~2.23)、95%(同1.95、1.85~2.04)高かった。

曝露1~2年後でリスク最高

 抗菌薬曝露後の期間別に見ると、IBDリスクは全年齢層で曝露1~2年後が最も高く、経年的に低下した。曝露4~5年後に対する1~2年後のリスクは、10~40歳では13%(IRR 1.13、95%CI 1.08~1.20)vs. 40%(同1.40、1.35~1.44)〕、40~60歳では21%(同1.21、1.13~1.29)vs. 66%(同1.66、1.59~1.73)、60歳以上で22%(同1.22、1.14~1.31)vs. 63%(同1.63、1.57~1.70)だった。クローン病と潰瘍性大腸炎のリスクは、いずれも抗菌薬曝露1~2年後で最も高かった。

 抗菌薬の種類別に見ると、IBDリスクの上昇は全年齢層で認められ、主に消化管感染症に用いられる広域スペクトルのニトロイミダゾール系とフルオロキノロン系で最も高かった。IBDリスクとの関連はnitrofurantoinでのみ認められなかった。狭域スペクトルのペニシリンもIBDリスクとの関連が認められたが、比較的リスクは小さかった。以上から、多くの抗菌薬は腸内細菌叢の構成を変える可能性があり、IBD発症において重要な役割を果たしていることを裏付ける知見が示された。

 これらの結果を踏まえ、Faye氏らは「デンマーク人を対象とした研究で、抗菌薬の使用がIBD発症リスクの上昇と関連することが示された。この関連は潰瘍性大腸炎とクローン病の両方で認められた。IBD発症リスクは40歳以上、抗菌薬使用1~2年後で最も高く、抗菌薬使用回数の増加とともに上昇し、一般に消化管感染症の治療に用いられる広域スペクトル抗菌薬への曝露で高かった」と結論。

 さらに「加齢に伴う微生物環境の変化は腸内細菌叢の多様性を低下させ、摂動への感受性を増加させる。それに抗菌薬の使用が加わることにより、腸内細菌叢の多様性がさらに低下し、長期的に細菌叢を変化させる。加えて抗菌薬を頻用することで、腸内細菌叢の回復が抑制される。これらにより抗菌薬の使用回数の多さがIBD発症リスクの増加と関連するというわれわれの知見が支持される」と説明し、「公衆衛生対策としての抗菌薬適正使用は、多剤耐性菌の出現を抑制しIBD発症リスクを低減する上で重要である」と付言した。

(大江 円)

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