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肺がん術後患者の悩みを「見える化」

患者報告アウトカムを活用

2023年03月06日 05:00

276名の医師が参考になったと回答 

イメージ画像 © Adobe Stock ※画像はイメージです

 肺がんは日本および世界におけるがん死亡原因の第1位で、国内では肺転移例を合わせ毎年5万例が手術を受けている。患者は術後早期から精神的・肉体的症状とともに社会経済的な苦痛などを経験するのに対し、医師は患者の症状を過小評価する傾向にある。関西医科大学呼吸器外科学講座講師の齊藤朋人氏らは、患者報告アウトカム(PRO)を用いて、肺がん術後患者の症状や悩みの「見える化」に成功したとPLoS One2023; 18: e0281998)に発表した。

退院から初回外来受診までのデータが乏しい

 肺がん領域では、低侵襲の胸腔鏡手術の臨床導入などによる治療の進歩を受け生命予後が改善している。ただし、治療の有効性の評価には全生存(OS)や無病生存(DFS)などの客観的な指標が用いられ、患者が感じる症状の強さや悩みなどの主観的な指標は重視されていなかった。患者中心の医療の実現においては、患者の主観的な評価が不可欠であるためPROが注目されている。

 これまで、肺がん術後に生じる全ての症状は術直後にピークに達した後、経時的に緩和すると考えられてきた。しかし、患者が強い症状を抱えながら体力の低下に直面しつつリハビリテーションを開始する重要な時期である術後3週間は、手術を受けてから退院後の初回外来受診までの期間と重なることから、この時期の症状の変化に関するデータは乏しく、特に術後1週間以内にPROを測定した研究は少なかった。

 そこで齊藤氏らは、胸腔鏡下肺切除手術を受けた患者が術後3週間に経験する症状と悩みの実態を解明する目的で、前向き研究SMILE-001を実施した。

複数の症状や支障は術後3~4日目に再増悪

 対象は、2019年5月~20年2月に関西医科大学病院で肺悪性腫瘍またはその疑いと診断され、胸腔鏡下肺切除術を受けた成人患者75例(女性36例、年齢中央値70歳、範囲33~84歳)。MDアンダーソンがんセンター版症状評価票(MDASI)を用いて、直近24時間における13項目の症状(痛み、だるさ、心痛など)の強度および6項目の日常生活への支障度(日常生活全般、仕事、歩行など)を0~10の11段階で評価し、術後から退院後の初回外来受診まで毎日記録。術後1日目における症状の重症度および支障度を5、10、15、20日目と比較した。

 Joinpoint回帰分析の結果、痛みや活動全般の支障を含む複数の症状・支障度は術直後に改善するものの、術後3日目または4日目に再増悪していた。MDASIの痛みスコアや活動全般スコアが初回外来受診までに2回連続で3以下まで回復する患者と、症状や支障が遷延する患者の違いは、退院直前の術後4日目に現れ始め、退院後に顕著になった(図1)。

図1. 回復の有無別に見た症状および支障度の推移(Joinpoint回帰分析)

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 入院中の悩みについて回答が得られた67例では、「症状の強さ」が32.8%、「パートナーへの負担」が23.9%、「症状の管理の困難さ」が20.9%を占め、最も知りたいことは「症状の持続期間」で19.3%だった。退院後の主な悩みに関する回答が得られた50例では、「症状の持続」が70%、「体力の低下」が54%、「日常生活の支障」が50%で、最も知りたいことでは「症状の持続期間」が29.4%だった(図2)。

図2. 入院中および退院後の患者の悩みと情報ニーズ

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(図1、2とも関西医科大学プレスリリースより)

 以上を踏まえ、齊藤氏らは「術後1日目から退院後の初回外来受診まで毎日PROを記録することで患者の症状と悩みの可視化に成功した。痛みや日常生活の支障を含む幾つかの症状は退院後悪化するケースがあること、早期に症状が改善する患者とそうでない患者が存在することなどの実態が判明した」と結論。「今後は研究の継続により、①治療中の患者の症状評価の精度向上・合併症の早期認識、②治療予定患者への実態に即した情報提供、③症状悪化・改善の機序に迫る研究の活性化-を通じて患者中心の医療の実現につながることが期待される」と展望している。

(小野寺尊允)

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