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HFpEF患者へのSGLT2阻害薬、費用効果は?

2023年03月28日 05:05

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 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者に対する標準治療へのSGLT2阻害薬の上乗せ治療により、心不全悪化および心血管死のリスクが低減することが報告されているが、費用効果を考慮した検討は十分ではない。米・Massachusetts General HospitalのLaura P. Cohen氏らは、米国のHFpEF患者1万2,251例を対象に標準治療へのSGLT2阻害薬の上乗せ治療に関する生涯費用効果を検討。結果をJAMA Cardiology2023年3月4日オンライン版)に発表した。

マルコフモデルで生涯健康への影響と直接医療費を予測

 SGLT2阻害薬は薬価が比較的高いため、米国で推定患者数300万例とされるHFpEF成人患者に用いると医療費を大幅に押し上げる可能性がある。米国では薬剤費の自己負担額が高いことがSGLT2阻害薬が心不全治療に広く普及する上で障壁となっている。昨今、医療経済学的評価の重要性が増していることと相まって、HFpEF患者へのSGLT2阻害薬の生涯費用効果と米国の年間予算への影響を定量化し、評価することは米国の価格設定(薬価引き下げ)に影響を及ぼし、結果として薬剤へのアクセス改善に役立つ可能性がある。

 Cohen氏らは、HFpEFの標準治療にSGLT2阻害薬エンパグリフロジン(10mg/日)またはダパグリフロジン(10mg/日)を上乗せした場合の、生涯健康への影響と直接医療費を推計するためのマルコフモデルを開発した。

 対象は、両薬の臨床試験2件〔EMPEROR-Preserved:HFpEF成人患者におけるエンパグリフロジンの安全性・有効性評価、DELIVER:左室駆出率が軽度に低下した心不全(HFmrEF)またはHFpEF患者に対するダパグリフロジンの安全性・有効性評価)の適格基準を満たしたHFpEF患者1万2,251例(平均年齢71.7歳、男性55.7%)のコホートデータを用いた。

 解析項目として、両試験の一次、二次解析、メタ解析、公開されている心不全およびHFpEFの疫学および臨床試験データなどから、入院率、死亡率、治療費などを抽出。心不全による入院率、救急外来受診率、心血管死亡率、非心血管死亡率などについてシミュレーションした。

 主要評価項目は、標準治療へのSGLT2阻害薬上乗せ治療の質調整生存年(QALY)、直接医療費(2022年分、米ドル)、生涯の増分費用効果比(ICER)とした。なお、SGLT2阻害薬上乗せ治療のICERは、米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)のvalue frameworkに従い、5万ドル未満を「高値」、5~15万ドルを「中程度」、15万ドル以上を「低値」と評価した。追跡期間は2.3年(両試験の追跡期間中央値の平均)だった。

HFrEF患者ではHFpEF患者より高い経済的価値

 解析の結果、標準治療単独に比べSGLT2阻害薬を上乗せした場合の生涯直接医療費は2万6,312ドル(95%不確実性区間 2万290~3万1,722ドル)増加し、QALYが0.19(同0.03~0.33)延長した。これにより、標準治療と比べたSGLT2阻害薬上乗せ治療の生涯ICERは、1QALY gained当たり14万1,200ドルであり、費用効果は中程度であることが示唆された。ただし、医療経済的価値は心血管死亡率と密接に関連するため、心血管死亡率がわずかに上昇したことでSGLT2阻害薬の上乗せ治療の費用効果は低いと評価された。

 一方、標準治療へのSGLT2阻害薬の上乗せ治療は、心血管死亡率または非心血管死亡率に影響を及ぼさないと仮定した場合、生涯ICERは1QALY gained当たり37万3,400ドルに増加した。すなわち、SGLT2阻害薬に死亡率の低減効果がなければ、費用効果は低いと推計される。

 さらに、米国の国家予算に及ぼす影響を分析したところ、HFpEF成人患者の半数がSGLT2阻害薬による治療を行った場合、総医療費は年間43億ドル(範囲34~55億ドル)増加すると推計された。Cohen氏は「近年登場した心血管疾患治療薬の普及の遅れによって、国家予算への影響が緩和される可能性がある。また、将来的にはジェネリック医薬品が普及することで、HFpEF患者の医療費が減少する可能性がある」と考察している。

 同氏は「われわれの研究結果は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者を対象に行われたダパグリフロジンの費用効果分析の結果に基づいている。同薬の生涯ICERは1QALY gained当たり6万8,300~8万3,650ドルと推計され、HFpEF患者の値より低かった」と指摘。この要因として、SGLT2阻害薬がHFrEF患者の心血管死亡率の低下に有意に関連することが報告されているのに対し、HFpEF患者を対象としたメタ解析では心血管死亡率の有意な低下は認められなかった点、さらに全死亡に占める心血管疾患死の割合がHFpEF患者よりHFrEF患者で高かった点を挙げた。

 以上の知見を踏まえ、同氏は「米国のHFpEF成人患者に対する標準治療へのSGLT2阻害薬の上乗せ治療の医療経済学的評価は、標準治療単独と比べ、中程度または低いことが示唆された」と結論。その上で、「HFpEF患者に対しSGLT2阻害薬の使用を拡大するには、薬価を引き下げる努力が必要になる」と付言している。

(宇佐美陽子)

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