網膜画像所見と統合失調症の関連を示唆

英・後ろ向きコホート研究

2023年04月05日 16:43

　英・NIHR Moorfields Biomedical Research CentreのSiegfried K. Wagner氏らは、眼底写真および光干渉断層撮影（OCT）所見から統合失調症患者における網膜血管と神経の形態学的特徴を明らかにする後ろ向きコホート研究を実施。統合失調症患者では黄斑領域の神経節細胞内叢状層（macular ganglion cell-inner plexiform layer；mGC-IPL）が有意に薄く、網膜のフラクタル次元も低下していたとJAMA Psychiatry（2023年3月22日オンライン版）に報告した。

血管や神経の変化をマルチモーダルイメージングで把握

　統合失調症を双方向性の調節障害に起因する多臓器疾患として捉えようとする考え方が広まりつつある。例えば、統合失調症の初期に耐糖能異常のような代謝不全がしばしば見られ、糖尿病と統合失調症に共通する遺伝的メカニズムの存在も示唆されている。

　一方、眼は哺乳類におけるさまざまな調節障害の手掛かりを得る非侵襲的な経路として期待されており、眼底検査やOCTを含む多数の画像診断機器を活用するマルチモーダルイメージングによって微小血管や網膜神経の形態学的変化を捉え、全身性疾患の病態を把握するオキュロミクス（oculomics）が注目を集めている。

　今回、Wagner氏らは、英国の眼科データと入院状況を個々の患者レベルで結び付ける後ろ向きコホート研究AlzEyeのデータを活用し、統合失調症患者の眼の血管や神経に関連した複数の指標を詳細に検討した。

統合失調症群は高血圧や糖尿病の合併率高い

　対象は2008年1月～18年4月にＭoorfields Eye Hospitalを受診した患者。画像の質やその他の登録基準を満たした統合失調症患者485例（747眼）と非統合失調症患者10万931例（16万5,400眼）を抽出した。

　統合失調症群と非統合失調症群の平均年齢はそれぞれ64.9歳、65.9歳、女性割合は53.2％、52.8％。統合失調症群は非統合失調症群に比べ、高血圧と糖尿病罹病率が有意に高く〔高血圧：83.9％（407例）vs. 4万9,971例（48.0％）、P＜0.001、糖尿病：75.1％（64例vs. 27.6％（2万8,762例）、P＜0.001〕、貧困地域に居住している割合が高かった。

mGC-IPLは糖尿病の有無にかかわらず菲薄化

　年齢、性、社会経済的状況、糖尿病、高血圧、画像の質を調整した回帰分析の結果、統合失調症群では非統合失調症群と比べ、mGC-IPLが有意に薄く（－4.05μm、95%CI　－0540～－0.269μm、P=5.4x10^-9）、網膜血管のフラクタル次元も有意に低かった（－0.4units、同－0.22～－0.05units、P=0.001）。

　統合失調症群におけるmGC-IPLの有意な非薄化は、糖尿病合併患者を除外した解析（－3.99μm、95%CI －6.67～－1.30μm、P=0.004）や55歳以下の患者に限定した解析（－2.90μm、同－5.55～－0.24μm、P=0.03）でも認められた。網膜血管のフラクタル次元に関しては、糖尿病合併患者を除外した解析では有意差が消失した。

網膜神経の変性亢進を支持するエビデンス

　以上の結果を踏まえWagner氏らは「統合失調症群におけるmGC-IPLの有意な非薄化は、網膜神経の萎縮を示唆するものである」と指摘。「55歳以下の患者に限定した解析でmGC-IPLの非薄化の度合いが低かったのは、統合失調症患者における加齢に伴う神経変性の加速を裏付けるものである」と考察している。

　網膜血管の形態学的変化との関連については、糖尿病罹病患者を除外した解析でフラクタル次元の低下が有意でなくなったことから、糖尿病や高血圧の有病率の高さにより説明できるかもしれないと述べている。

　最後に同氏らは「われわれの知る限り、本報告は統合失調症患者の網膜を対象としたマルチモーダルなオキュロミクスの検討としてこれまでで最大規模のものであり、統合失調症で網膜神経の変性が亢進することを支持するものとなった」と結んでいる。

（木本 治）