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αシヌクレイン、血液検査で検出可能に

パーキンソン病などの早期診断に有用

2023年05月31日 05:05

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 α-シヌクレインという蛋白質の凝集体が神経細胞に蓄積し、細胞死を引き起こすことにより発症するパーキンソン病。順天堂大学大学院神経学教授の服部信孝氏らは5月29日に開いた記者会見で、血液検査により簡便にαシヌクレインの凝集体を検出する技術の開発に成功したと発表した。研究成果は、Nat Med(2023年5月29日オンライン版)に掲載された。同氏は「われわれが開発した技術で血中のαシヌクレイン異常凝集体の検出に成功した。また発症早期であってもパーキンソン病関連疾患である多系統萎縮症、レビー小体型認知症との鑑別に有用であることも判明した」と述べた上で、「今後は、パーキンソン病の診断が可能になり、発症早期から治療介入できる時代に突入するだろう」と研究の意義を強調した。

血液中に微量しか含まれず、検出困難な蛋白質

 パーキンソン病やレビー小体型認知症をはじめ、パーキンソン症候群である多系統萎縮症などの神経変性疾患では、脳だけでなく全身にαシヌクレインの異常凝集体が出現し、神経細胞死を引き起こすことが知られている。 "αシヌクレイノパチー"と総称され、振戦、こわばり、動作緩慢といったパーキンソン症状、認知機能障害、自律神経機能障害、睡眠障害など多様な症状を伴う進行性の難病だ。

 パーキンソン病などの診断ではCTやMRIなどの脳画像検査、脳脊髄液(CSF)検査などが行われるが、麻酔が必要、手技が煩雑で専門医が行う必要がある、患者の負担が大きいなど課題があった。一方、αシヌクレインの凝集体は身体のさまざまな組織で見つかり、これらの疾患のバイオマーカーとしての可能性を示唆しているものの、血液中には超微量しか含まれず、確実に検出できた研究についての報告はほとんどなかった。

 そこで服部氏らは、ヒトプリオン病患者の脳脊髄液中の異常型プリオン蛋白の検出などに用いられている高感度増幅法(Real-time QuIC法:RT-QuIC法)と、抗原と抗体の親和性を利用して溶液中から抗原を特異的に分離させる方法(免疫沈降法;IP)に着目。両者を組み合わせた技術(IP/RT-QuIC)により、血中αシヌクレイン凝集体を簡便に検出する技術を開発した。

 また最近の研究で、αシヌクレイノパチー患者では脳だけでなく全身の末梢神経にαシヌクレインが蓄積することが明らかとなっている。同氏らは「全身への病態の進展は血液を介した経路が関与している」との仮説を立て、IP/RT-QuIC法を用いてスクリーニングを実施。αシヌクレイノパチーの診断や鑑別、病態解明を目的に研究を実施した。

高精度で健常者と判別可能に、治療薬の開発も

 研究対象は、αシヌクレイノパチー患者270例、非αシヌクレイノパチー患者55例、神経変性疾患のない健常者128例、parkin遺伝子に変異のある家族性パーキンソン病(PARK2)患者17例、前駆期αシヌクレイノパチーであるレム睡眠行動異常症(RBD)患者9例。服部氏らが開発したIP/RT-QuIC法を用いてシヌクレインの凝集体を検出したところ、陽性率はそれぞれ90%、9%、8.5%、0%、44%だった。

 解析の結果、IP/RT-QuIC法は感度96.7%、特異度86.2%と高い精度で健常者とαシヌクレイノパチー患者の鑑別が可能であることが示された。

 さらに、ルクセンブルク大学との共同研究で、パーキンソン病患者20例、健常対照20例、多系統萎縮症15例を対象に血中αシヌクレイン凝集体の検出率を検討。解析の結果、パーキンソン病患者で75%、対照例で5.0%、多系統萎縮症患者で53%だった。

 また、対象の血液検体から増幅したαシヌクレイン凝集体を電子顕微鏡で観察したところ、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症の3疾患で構造が異なることも突き止めた。

 今回の知見を踏まえ、同大学では「IP/RT-QuIC法により血中αシヌクレイン異常凝集体の検出に成功し、診断や治療のバイオマーカーになりうることを発見した」と結論。その上で、同氏は「増幅したαシヌクレイン凝集体はパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症で異なる構造を有し、診断にも有用。また、それぞれの構造に応じた治療薬の開発が可能になる」と期待を示した。一方、今回開発した手法では、血中から異常蛋白質を検出できるようにするには5日間の増幅期間が必要なため、「短時間の検出法の開発に加え、企業と連携して自動化にも取り組みたい」と付言している。

(小沼紀子)

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